林田力レビュー

林田力の書評や漫画レビューです。

『小説 君の名は。』

新海誠『小説 君の名は。』(角川文庫、2016年)は、大ヒット映画『君の名は。』の小説版である。映像美が注目された作品のため、小説はどうかと思われたが、映画の世界に忠実である。読みながら音楽が聞こえてきそうであった。

あれだけの大ヒット作である。称賛の声は巷に溢れている。私が新たに何か付け加えるならば、どうしても不満な点になる。辛口になっているが、ご容赦いただきたい。

映画でよく分からないとの意見が出た糸守町の避難訓練であるが、小説でも説明されていない。どうやって宮水三葉が父親を説得したか見せ場になりそうなところである。三葉は元々、閉鎖的な糸守町が嫌で東京に出ていくことを望んでいた。父親は建設会社と癒着して町長に当選した古い村社会の象徴である。その葛藤もある筈である。二人の物語がメインだからと言ってカットして良いか(これは『君の名は。 Another Side:Earthbound』で描かれる)。

次に指摘したい点として、糸守町の自然と東京の高層ビル群を共に素晴らしい風景と描くのはどうだろうか。飛弾の自然に異論はない。しかし、高層ビルは住環境や景観を破壊し、街のあり方として高層化が見直されつつあり、手放しで称賛できない。立花瀧が就職活動で建設業界を志望している点も合わせると建設業界に甘いのではないか。

これは著者のリップサービスがあるのではないか。著者は大成建設のコマーシャルを制作している。むしろ、建設会社のコマーシャルを制作するような立場の人でも建設業界と政治の癒着を自然に表現してしまうほど土建国家の問題は根深いと考えるべきか(林田力『外環道リスク』「談合」)。

最後に主人公らは簡単に記憶をなくしている。自我を最大の関心事とする近代文学的な視点からはどうなのかと感じてしまう。人は運命の与えた役割を果たすだけの存在なのか。好きな人が運命で決められてしまうことに恐ろしさを感じないだろうか。運命など関係なく、やりたいことをやるのが近代人ではないか。

毎日が発見と驚き『よつばと!第8巻』

本書(あずま きよひこ著、電撃コミックス、2008年8月27日発売)は「月刊コミック電撃大王」に連載中のコメディ・マンガの単行本である。主人公の5歳の少女「小岩井よつば」の新鮮な日々を綴った作品である。

タイトルの「よつばと」は主人公の名前「よつば」に英語のandに相当する並立助詞「と」を付したものである。これは『よつばと!』を構成する各話のタイトルと関係する。本作品では各話のタイトルは「よつばとたいふう」「よつばとおまつり」のように「よつばと○○」となっている。○○には、その話の主題となる「よつば」が体験したものが入る。『よつばと』は「よつば」と「よつば」が経験した物事の総称を象徴する。

本作品は一話完結のオムニバス形式である。しかし、各話は別個独立しているのではなく、連続している。表紙の「よつば」が法被を着ていることが示すとおり、この巻では「よつば」が祭りに参加する話がある。

それより前の話で法被の購入について登場人物が話し合っていた。「よつばとおまつり」を読むことで、お祭りのために法被を買おうとしていたことが認識できる。このような仕掛けによって「よつば」達が連続した日々を送っていることが実感できる。これは本作品をリアリティのある構成にしている。

『よつばと!』のキャッチコピーは「いつでも今日が、いちばん楽しい日。」である。それは決して過去をリセットして今を楽しむ刹那的な発想ではない。過去の積み重ねが現在を構成する。そして過去の蓄積を踏まえた上で、現在において新たな発見をすることで、今日を一番楽しい日とする。

本作品は自由奔放な子どもの言動が周囲の大人を振り回し、それが笑いを誘う。この点で臼井儀人の『クレヨンしんちゃん』と比較したくなるが、両者はコンセプトが異なる。「野原しんのすけ」は現代社会にどっぷりつかったマセた子どもである。これに対し、遠くの島で育った「よつば」は日本の都市生活そのものが初めての経験である。「しんのすけ」は子どもらしくない言動で周囲を振り回す。一方、「よつば」は初めての経験からの純粋な驚きがベースとなっている。

そして「憎まれっ子世にはばかる」的な「しんのすけ」に対し、「よつば」が自由奔放に行動できる背景には周囲の人々の暖かさがある。「とーちゃん」や、その友人のジャンボ、隣家の綾瀬家の母親のように「よつば」と正面から向き合う度量をもった大人は現実には中々存在しない。これは会社人間では無理である。実際、「とーちゃん」の仕事が翻訳家で、家にいることが多い点が本作品の基本的な設定になっている。

社蓄とまで言われる会社人間的生き方は、既に多くの人々にとって魅力的なものではなくなっている。しかし正社員にならない非正規雇用にはワーキングプアという現実がある。会社人間を否定したとしても豊かな生活には直結しない。

現実の日本社会には「よつば」を受け入れるだけの余裕はなさそうである。本作品が愛しく感じられるのも、毎日が新鮮だった子ども時代を回顧させるだけではない。格差が拡大し、社会から余裕が失われた現代日本において、望み得ない日々が描かれるためと考える。

『よつばと!』第11巻、脇役が主人公を翻弄する逆パターンも

あずま きよひこがは『月刊コミック電撃大王』に連載中の漫画『よつばと!』第11巻が、11月26日に発売された。『よつばと!』は5歳の少女「小岩井よつば」の新鮮な日々を綴ったコメディである。

遠い海の向こうの島から引っ越してきた「よつば」にとって日本の都市生活は初めての経験で、驚きの連続であった。この巻でも、「よつば」は、うどん屋のうどん製作や宅配ピザ、栗拾い、写真撮影などを体験する。

都市生活に慣れている読者にとっては当たり前のことにも「よつば」は驚く。何事も当然のように感じてしまい、発見も驚きもない日常を繰り返しがちな読者にとって、「よつば」の反応は思いもよらないものである。それが笑いを誘う。

好奇心いっぱいの「よつば」からは、ヨースタイン・ゴルデルのベストセラー作品『ソフィーの世界』を想起する。『ソフィーの世界』で哲学者アルベルト・クノックスはソフィーに、赤ん坊は偉大な哲学者であると繰り返し主張した。赤ん坊にとっては世界の全てが新しく珍しいため、当たり前と決め付けることはない。この世界に来たばかりの存在である赤ん坊は、習慣の奴隷になっていないためである。これは「よつば」にも当てはまる。

一方で連載の長期化によって「よつば」も都市生活に馴染んできた。当初は「よつば」の人間関係は小岩井家と隣の綾瀬家をチャネルとしていたが、うどん屋のように独自の人間関係も築き始めた。初対面の大人とも仲良くなれる「よつば」の才能である。

都市生活に馴染んだために「よつば」が極端な言動で周囲の大人を振り回す要素は弱まった。代わりに脇役の言動が笑いを補い、「よつば」を振り回すほどであった。安田はシャボン玉作りで「よつば」と張り合う。複数の道具を用意し、それを小出しにして「よつば」を翻弄した。

また、「よつば」にとっては家族同然のぬいぐるみ「ジェラルミン」が事故に遭う。普段は自由奔放で明るい「よつば」の落ち込む姿が描かれる。「よつば」を慰めようと綾瀬風香は「ジェラルミン」の目線で語りかけるが、逆に「よつば」からドン引きされてしまう。綾瀬あさぎが「ジェラルミン」を修繕するが、動物を治療するように扱い、「ジェラルミン」を生き物のように思っている「よつば」に合わせている。

『よつばと!』の魅力が日本人離れした純真な主人公「よつば」のキャラクターに多くを負っていることは事実である。しかし、「よつば」を見守る脇役達も余裕を亡くした現代日本社会では珍しい子ども心を持ったキャラクターである。これが作品世界を重厚なものにしている。(林田力)


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林田力