東急不動産、「和解成立」後も新たなトラブル

手続きめぐり、和解金支払いが停滞

初出:林田力「東急不動産、「和解成立」後も新たなトラブル」オーマイニュース2007年7月9日

 東急不動産株式会社(東京都渋谷区、植木正威社長)が販売した新築マンションを巡るトラブルに関し、訴訟上の和解が成立したにも関わらず、和解条項の履行で紛争が再燃している。一旦、和解まで漕ぎつけたにも関わらず、紛争が再燃することは珍しいことだ。

 元々の紛争は、新築マンション購入者、すなわち記者(=林田)が、売主の東急不動産株式会社に売買代金の返還を請求した裁判である。

 東急不動産は、康和地所株式会社(東京都千代田区、夏目康広社長)から転売された土地(江東区東陽1丁目)にマンション「アルス」を建設・販売した。

 東急不動産は、マンション「アルス」建設時に康和地所株式会社の従業員を通じて、以下の説明を受けた。

 「アルス」に隣接する地所有者が、「アルス」竣工後に、隣接地の建物を建て替えること、それは作業所なので騒音があること──の2点である。

 康和地所は東急不動産に対し、「アルス」購入を検討する人たちに、「隣を建替え工事をする、騒音があることを、伝えて欲しい」と伝え、東急不動産側は了解した。

 にもかかわらず、東急不動産(販売代理:東急リバブル)側は、「アルス」購入を検討する客たちに「工事、騒音」のことをまったく説明していなかった。

 「アルス」301号室の購入者(=記者)は、部屋の引渡し後に、これら事実を知った。「工事、騒音」の説明を販売した東急リバブル側から、まったく受けていなかった。

 301号室の購入者は、「消費者契約法第4条第2項(不利益事実不告知)」に基づき、「アルス」売買契約を取り消した上で、売買代金2870万円の返還を求め、東京地方裁判所に提訴した。

 東京地方裁判所民事第7部(民事第7部、山崎勉裁判官)は、2006年8月、「消費者契約法第4条第2項(不利益事実不告知)」による不動産売買 契約取消しを認定して、売買代金全額返還を命じる、画期的な判決を言い渡した(東京地裁平成18年8月30日判決、平成17年(ワ)第3018号、売買代 金返還請求事件)。

 「消費者契約法」に基づく契約取消しが認められた事例はそれまでもあった。しかし、ほとんどの消費者にとって一番大きな買い物である、不動産売買契約の取消しが認められたのは、この判決が最初である。判決内容は、

 「被告(=東急不動産)は、本件売買契約の締結について勧誘をするに際し、原告に対し、本件マンションの完成後すぐに、北側隣地に3階建て建物が 建築され、その結果、本件建物の洋室の採光が奪われ、その窓からの眺望・通風等も失われるといった住環境が悪化するという、原告に不利益となる事実ないし 不利益を生じさせるおそれがある事実を、故意に告げなかったものというべきである」

 控訴審の東京高等裁判所においては、一審判決に沿った内容の和解が成立した。

 すなわち東急不動産が、2007年3月までに金3000万円を、301号室購入者に支払い、一方、購入者は301号室を、2007年6月末に明け渡すことを骨子とする和解だった。

 ところが、東急不動産と301号室購入者との間にトラブルが再発した。

 和解金の支払いは、当事者(東急不動産と301号室購入者)間の協議で、2007年3月28日午前11時に、三井住友銀行深川支店において、現金で支払いが行われることになっていた。

 ところが、その当日、東急不動産は3000万円の支払いを拒否したのだ。

 結果、「アルス」301号室購入者と東急不動産の主張は全面的に対立することになった。

 論点は、大きく3つある。これらの論点は相互に関係している。

 第1に、「アルス301号室所有権移転登記の登記原因」である。東急不動産側は、登記原因を「和解」とし、登記原因の日付を3000万円支払日とし、上記内容を記載した登記原因証明情報を作成して、共同申請をすることを求めた。

 しかし、和解調書には「平成18年12月21日付『訴訟上の和解』を原因とする」と明記してある。そこで購入者側は、和解調書記載のとおりとすることを主張した。

 これに対し、東急不動産側は「東京法務局に確認したところ、訴訟上の和解では登記できないと言われた」と反論した。ところが、購入者側が、東京法務局に確認したところ、東急不動産側の説明は虚偽であることが判明した。

 第2に、「アルス301号室所有権移転登記手続き」である。

 東急不動産側は、東急不動産の用意した司法書士への委任状を提出することを要求した。これにより、東急不動産と被控訴人(=購入者=林田)の共同 申請で移転登記すると主張した。確かに、第1で東急不動産側が主張したように「登記原因を和解」とするためには、共同申請による必要がある。

 ところで本件は、確定判決と同一の効力を持つ和解調書に規定されているため、被控訴人が東急不動産から3000万円を受領した時点で、登記をする旨の意思表示が擬制される(民法第414条2項但し書き、民事執行法第174条)。

 これにより、被控訴人は「登記手続きする」という義務を果たしたことになり、登記申請手続きをすることは不要である。その結果、東急不動産側は登記を単独申請できる(不動産登記法第63条)。

 東急不動産側が、単独で登記申請できる以上、「アルス301号室」の購入者が、登記義務者となって登記申請する必要はない。

 従って東急不動産側のが司法書士に対して、301号室購入者が「印鑑証明」を用意して、実印を押した委任状を提出する必要性はない。

 これに対し、東急不動産側は、「被控訴人が登記手続きをする」との和解条項は、アルス購入者が、実際に登記申請を行う義務を定めたものであると解 釈し、反論する。すなわち、東急不動産側は、自分たちの用意した司法書士に、委任状を提出しない以上、被控訴人(=301号室購入者)は義務を果たしてい ないので3000万円を支払えないと言う。

 「アルス301号室」購入者の再反論は以下の通りである。

 和解条項には、アルス購入者が申請人となって登記申請をしなければならないという明示的な記述はない。存在しない以上、一般的な解釈に従い、登記意思を擬制したに過ぎないと解釈される。

 和解調書で意思表示が擬制される以上、東急不動産側が3000万円を払えば、アルス購入者は所有権移転登記をする意思表示がなされ、「被控訴人が登記手続きをする」との義務を果たしたことになる。

 よって、東急不動産が所有権移転登記を単独申請することに何の障害もない。東急不動産側は、「アルス301号室」購入者から、委任状や印鑑証明を取得しなくても、和解調書を登記原因証明情報として提出しさえすれば良く、共同申請にするよりもストレートである。

 論点の3つ目は、「アルス301号室」所有権移転登記を単独申請する場合の手続きについて。

 第2の被控訴人(=購入者)の主張の通り、東急不動産が3000万円支払えば、被控訴人の登記する意思が擬制されるため、東急不動産は単独申請できる(不動産登記法第63条)。

 単独申請する場合、和解調書に執行文を付与する必要があり、執行文付与申請時に反対給付の3000万円支払いを証明する必要がある。

 被控訴人は、反対給付の証明は文書で行わなければならないため(民事執行法第174条第2項)、3000万円受領と引き換えに渡す受領書を、執行文付与申請時に提出すればいいと主張した。

 これに対し、東急不動産側は、証明する文書は公文書に限られるとして法務局に供託するしかないと主張した。

 これに対し、「アルス301号室」購入者は、以下のように反論した。

 東急不動産は、和解調書に執行文付与申請をしなければならないが、それが面倒ということは「アルス」購入者に、登記申請を押し付ける理由にはならない。

   3000万円を支払ったことの証明は、文書でなければならないが、公文書でなければならないという制限は存在しない(民事執行法第174条第2項)。購入 者に3000万円を支払い、受領書を受け取り、それを証拠として執行文付与申請をすればよいと主張する。

 両者の溝は埋まらず、3000万円が支払われないまま、決裂した。

 今後は強制執行手続きなど「司法の場」で改めて争われることになる。


東急不動産消費者契約法違反訴訟終結

都内のマンションの売買めぐり

初出:林田力「東急不動産の実質敗訴で和解」オーマイニュース2007年3月2日

 東急不動産消費者契約法違反訴訟(平成18年(ネ)第4558号)で昨年12月、東京高裁において訴訟上の和解が成立した。東急不動産の実質敗訴である。

 本裁判は、東急不動産が不利益事実(隣地作業所の建て替え、騒音の発生)を告知せずに新築マンション「アルス」(東京都江東区)を販売したとして、消費者契約法第4条第2項に基づき、売買契約を取り消したアルス購入者が売買代金の返還を求めて提訴したものである(平成17年(ワ)第3018号)。一審の東京地裁は昨年8月、不利益事実不告知を認定し、東急不動産に売買代金全額および遅延損害金の支払いを命じた。

 これに対し、東急不動産は翌月、東京高裁へ控訴。控訴趣意書を提出したが、その内容は一審判決が明確に否定した主張の焼き直しに過ぎなかった。 ちなみに控訴趣意書は刑事事件の用語で、民事事件では控訴理由書という。東急不動産があえて控訴趣意書という文書名にした理由は不明である。

 一方、原告側はアルスの構造設計者であるアトラス設計(東京都)の渡辺朋幸代表が一級建築士資格を持たない無資格者であるとの新事実を入手し、付帯控訴も準備した。和解の成立はこうした中でのできごとで、東京高裁では一度も口頭弁論が開かれることはなかった。東急不動産は自社の正当性を主張するために控訴したはずであるが、その主張を一度も開陳することなく、和解に応じたのだった。

 訴訟上の和解の内容は、東急不動産が敗訴した一審判決に沿うものである。一審判決は原告のアルス明け渡しと引き換えに、東急不動産に売買代金全額2870万円および遅延損害金の支払いを命じたが、本件和解では東急不動産が和解金3000万円を原告に支払い、原告が今年6月末日までにアルスを明け渡すことが骨子となっている。

訴訟上の和解をめぐる誤解

記者(林田)の市民記者としての出発点は自己の経験した新築マンションだまし売り事件を記事として書くことであった(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社、2009年、106頁)。

これに対して、過去の話を蒸し返すことへの批判的な反応がなされることがあった。そこには歴史性に欠ける日本人の浅ましさがある。これは様々の分野の書籍で指摘されている通りである。

「日本人は加害者でありながら被害者に向かって「すんだことをいつまでもガタガタいうな」と言ってのけることができる民族なのだ」(田中芳樹『創竜伝4四兄弟脱出行』講談社、1994年、138頁)。

「「過去にこだわるよりもこれからどうするかが大切だ」というような考え方はいかにも前向きに聞こえるが、過去を引きずらない現在はない。歴史を無視したのでは、現状に至る本質の認知が半端だから、将来への正しい路線・目標を設定できなくなる。外国からいちゃもんがつくとか何とかの問題ではない。国民性、資質の問題である」(奥井禮喜『労働組合とは何か』ライフビジョン、2005年、33頁)。

新築マンションだまし売り事件への言及に対する批判的な反応には過去を水に流してしまう日本人の一般的な欠点に加え、訴訟上の和解に対する無理解がある。そこで本記事では、この点について検討する。

記者は東急不動産(販売代理:東急リバブル)から不利益事実(隣地建て替えなど)を説明されずにマンションを購入した。引渡し後に真相を知った記者は消費者契約法に基づき売買契約を取り消し、売買代金返還を求めて東京地裁に提訴した。東京地裁判決では記者が勝訴し、東京高裁において判決に基づいた内容で訴訟上の和解が成立した(林田力「マンション販売トラブルで「お詫び」 東急リバブル・東急不動産」JANJAN 2007年10月4日)。

http://www.news.janjan.jp/living/0710/0710023335/1.php

訴訟上の和解は民事訴訟法に規定された訴訟を終了させる形式の一つである。和解という言葉が使われているが、「仲直り」を意味する日常語的な和解とは別物である。法的紛争の元となった権利関係及び訴訟の終了について合意したに過ぎず、感情的また社会的に仲直りをしたことを意味しない。従って訴訟上の和解後に新築マンションだまし売り事件について記事を書くことに何ら制約は存在しない(決して好ましいことではないが、和解条項で制限されれば別である)。

実際のところ、記者にとって訴訟上の和解は自己の権利主張を推し進めるためのものであった。単純な金銭の支払いを求める裁判ならば確定判決後に強制執行すれば済む。ところが新築マンションだまし売り事件は売買契約の取消しに基づく売買代金の返還である。

単純化すれば「問題物件を返品するから売買代金を返せ」という主張である。売買代金を取り戻すためにはマンションを返品しなければならない。ところが、マンションは通信販売で購入した商品のように相手方に送りつけるわけにはいかない厄介なものである。

そこで訴訟上の和解によって、売買代金の返還、登記の移転、物件の明渡しなどを規定した。ここでは消費者契約法に基づき売買契約が取り消され、売買代金が返還されることを前提に手順や内容を詰めた。つまり一審判決の内容を実現するために具体化したものが和解調書であった。

このように訴訟上の和解は記者の権利を具体的に実現するためのものであって、東急不動産に遠慮したものでも妥協したものでもなかった。この点は東急不動産も認識していた筈であり、だからこそ和解条項を履行する段になって紛争を再燃させ、巻き返しを図ったものと思われる。

即ち、東急不動産は和解調書と異なる形での所有権移転登記を主張し(登記原因を「訴訟上の和解」ではなく、「和解」とするなど)、拒否されると金銭の支払いを拒否した。このような紛争が起きたこと自体が、訴訟上の和解が両者の一切の対立を解消するものではないことを雄弁に示している。

裁判の当事者にも「訴訟上の和解」を相手方への妥協や屈服と捉え、嫌がる人もいる。しかし、このような発想は日常語の和解との混同による誤解である。裁判で重要なものは自己の主張(請求)である。判決か訴訟上の和解かという形式ではなく、請求が認められたか否かが問題である。

訴訟上の和解は裁判を終了させる手続きの一つで、実務上多用されている。判決よりも訴訟の和解で終結する裁判の方が多いのが実態である。従って訴訟上の和解に対する正しい認識を持つことは、新築マンションだまし売り事件以外の他の事件を理解する上でも意義がある。

 

消費者トラブルの2つの論点

毎年5月は消費者月間である。2010年度は消費者庁設立後最初の消費者月間になる。2010年度のテーマは「守ろうよ、みんなを!〜なくそう!高齢者の消費者被害〜」で、悪質リフォームなど高齢者の被害に重点的に取り組む。

国が消費者月間を設けて消費者問題の啓発活動を行う背景には、消費者を食い物にした悪徳商法が多発しているという現実がある。記者(林田)自身も大手不動産会社から不利益事実を隠して新築マンションをだまし売りされ、裁判で売買代金を取り戻した経験がある(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社、2009年)。

そのために消費者トラブルについての議論が盛んになることは歓迎できる。但し、消費者トラブルの議論では性質の異なる2つの論点が存在することに注意しなければならない。2つの論点とは以下である。

第1に消費者トラブルに巻き込まれないための予防策である。たとえば記者の経験した不動産トラブルに関して話せば「過去に消費者とトラブルを起こした不動産業者とは購入しない」などの自衛策がある。

第2に消費者トラブルに巻き込まれた場合の対処法である。たとえば記者の不動産トラブルでは、消費者契約法第4条第2項(不利益事実不告知)に基づき、不動産売買契約を取り消すことが効果的な対策になる。また、消費者契約法の取消権は行使期間(追認できる時から6ヶ月間など)が定められているために迅速に取り消すなどの知識がある。

これら2つの論点は双方とも消費者問題に必要な議論であるが、それぞれの論点は対象が異なり、論点を混同してはならない。記者のように現実に消費者トラブルに巻き込まれた人にとって必要なものは第2の論点である。消費者トラブルの被害者に対して第1の論点で議論することは意味がない。

ところが、往々にして消費者問題の論考は実際の悪徳商法被害者の問題を論じながら、いつの間にか第1の論点で議論する形に陥りやすい。これでは被害者にとって何の解決にもならない。それどころか、消費者トラブルに巻き込まれた被害者が悪いという方向になりかねない点で有害である。

「だまされる人が悪い」は詐欺師の論理である。だます人とだまされる人の間では、だます側が完全に悪い。それ故に、被害者を責めるのではなく、加害者にどのように責任追及できるかを考えることが消費者問題の存在意義になる。

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東急不動産係長が顧客に脅迫電話で逮捕、犯罪者に
林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』
東急不動産(販売代理・東急リバブル)から不利益事実を隠して問題物件をだまし売りされた著者(=原告)が消費者契約法に基づき売買契約を取り消し、裁判で売買代金を取り戻した闘いの記録(ロゴス社、2009年7月1日発行)。
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