江東区議会宛「若者の自立支援政策を目的とした区内の空き家の実態調査とそれに基づく施策策定の陳情」

空き家活用陳情

林田力

希望のまち東京in東部は2014年7月7日に江東区長宛陳情「若者の自立支援政策を目的とした区内の空き家の実態調査とそれに基づく施策策定の陳情」を提出した。同種の陳情は葛飾区長及び足立区長にも提出した。

陳情は「モデルケースとして、高齢者の人口比率が高い地域(たとえば大島や亀戸)を指定して、空き家(部屋)の全数実態調査」ことを求める。その上で実態調査結果に基づいた施策として「家賃補助などと組み合わせた単身若年層への住居の斡旋」や「シェアハウス、非営利団体などによる空き家(部屋)の活用推進」の検討を求める。

空き家の増加が大きな問題になっている。地方自治体の取り組みは老朽空き家の撤去が中心である。これはスクラップアンドビルドの開発優先社会の延長線上の発想である。これに対して希望のまち東京in東部は空き家の有効活用を求めている。

空き家問題は国政テーマとも重なる。実はアベノミクスとも問題意識は重なっている。安倍政権は中古住宅の流通促進という面から取り組んでいる。2013年6月14日に閣議決定した日本再興戦略では2020年までに中古住宅流通市場・リフォーム市場規模を2倍(20兆円)に拡大させるという目標を掲げた。

「我が国の住宅流通に占める中古住宅のシェアは、平成20年時点で約13.5%となっており、アメリカ(77.6%)やイギリス(88.8%)といった欧米諸国と比べて圧倒的に低い状況にある」(不動産流通市場活性化フォーラム『「不動産流通市場活性化フォーラム」提言』2012年、2頁)。

日本の住宅市場は新築住宅偏重であり、中古住宅流通市場の拡大は有意義な政策である。但し、日本の住宅政策の問題点である持ち家偏重からは抜け出せていない。希望のまち東京in東部は空き家を賃貸住宅として活用しようというものである。住まいの貧困に苦しむ人々の助けになる住宅は分譲住宅ではなく、賃貸住宅であるためである。

以下の指摘もある。「家賃補助などを適切に講じることで、空き家を公営住宅の代わりとして、あるいは公営住宅を補完する目的で活用していく必要がある」(米山秀隆「空き家対策の最新事例と残された課題」富士通総研経済研究所・研究レポートNo.416、2014年、20頁)

今回の陳情には二つの特色がある。若年単身層へのフォーカスとモデル地区を指定しての調査である。前者は若年単身層が住まいの貧困に苦しみながらも住宅セーフティネット法(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)の直接の保護対象になっていないという制度の不備を埋めるものである。

若年層の住まいの貧困は江東区議会も認識を同じにする。江東区議会では2007年(平成19年)12月13日に「若年層の雇用と生活の確保に関する意見書」を採択し、若年層支援として住宅確保を求めている。

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厚生労働省は、就職と家の確保ができる支援を同時に進めることが必要として、住居と就職機会の確保を柱とした支援策を平成20年度から実施するとしている。しかしながら、厚生労働省の調査結果を踏まえると若年層を取り巻く環境は大変厳しい状況にあることから、より一層の支援強化に取り組む必要があると考える。よって、本区議会は、国会及び政府に対して、雇用法制を見直し、若年層の雇用機会の促進を図るとともに、住宅の確保等の支援策を緊急に実施することを強く求めるものである。

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後者は「空き家は点在しているため、それぞれの地域では大きな問題という共通理解がない」という空き家問題の難しさに対応したものである。その対策として「問題が切実で共通目標を立てやすい地域でモデルとなる事例を作る(モデル事業の実施)」と指摘されている(平竹耕三「コモンズ論―総有の事例と課題」第14回東京ベイエリア産学官連携シンポジウム「建築許可を中心とした都市法改正案と現代的総有の試み」芝浦工業大学2012年9月29日)。

空き家活用陳情江東区回答

希望のまち東京in東部の江東区長宛陳情「若者の自立支援政策を目的とした区内の空き家の実態調査とそれに基づく施策策定の陳情」に対し、江東区は8月4日付で回答した。複数の所管が回答している。回答には住宅支援給付事業の説明資料が同封されていた。

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都市整備部住宅課長(2014年8月1日、26江政広第1253号)

本区では、ご意見にあります「住宅セーフティネット法」に基づいて「江東区居住支援協議会」を設置しております。この協議会は、江東区・東京都・不動産関連諸団体及び公的住宅事業者等で構成され、「低額所得者・被災者・高齢者・障害者・子育て世帯等」の住宅確保要配慮者への対策を官民共同で協議する団体となっております。この団体の取組として、現在、「高齢者世帯への民間賃貸住宅あっせん」を実施しておりますが、若年層の住宅確保要配慮者に対する施策については具体的な協議課題とはしておりません。



政策経営部広報公聴課長(2014年8月1日、26江都住第805号)

本区では「住宅支援給付事業」を実施し、離職により住居を失った(失うおそれがある)方で、就労能力と就労意欲のある方に一定期間家賃を支給しております。また社会福祉協議会でも、離職者により住居を失った方に敷金等の貸付を行っています。これらは対象を若者のみに特化したものではありませんが、若者も含めた離職者の住まいの確保に資する事業と位置づけております。

なお、本区におきましては、要求項目にありますような若者の自立支援政策を目的とした空き家の実態調査等を実施する予定はございませんが、本陳情は貴重なご意見として、今後の区政の参考にさせていただきます。

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陳情では住宅セーフティネット法で位置付けられていない単身若年層への住まいの支援を求めている。ところが、都市整備部回答は住宅セーフティネット法に基づいた施策をしていると回答する。住宅セーフティネット法の不十分な点を補って欲しいと求めているのに、「住宅セーフティネット法に基づいている」では回答にならない。

また、「高齢者世帯への民間賃貸住宅あっせん」は実施しているが、若年層の住宅確保要配慮者に対する施策はしていないとの回答は、若年層の住まいの貧困に取り組んで欲しいという問題意識への回答にならない。高齢者向け施策はしても、若年層向けの施策はしないということになり、世代間不公平意識を助長しかねない。

政策経営部回答は若年層に特化した訳ではないが、若者を含めた離職者の住まいの確保に資する事業を実施しているとする。若者を含めている点で問題意識への回答になるが、離職者などの限定条件があり、対象が狭い。

「住居を失った(失うおそれがある)方」を対象とするが、貧困と格差の拡大した現代社会は最初からまともな賃貸住宅を借りることができない人々がいる。多くの人々が「住まいの費用が自立の壁になっている」と気付き始めている。空き家をシェアハウスなど廉価な賃貸住宅にすることで、彼らでも借りられる住宅を提供することが有益である。

また、現代の若年層を取り巻く状況が「若者も含めた」という一般的な施策で救済されるほど生易しいものかという疑問がある。たとえば労働問題においてもブラック企業という若者言葉で認識しなければ捉えられない状況が起きている。厚生労働省がブラック企業の実態調査に乗り出している。

従来型の労働運動はブラック企業の問題意識が抜け落ちており、運動側がブラック企業という問題意識を共有することによって初めて若年層に意味のある存在になった。もし労働運動がブラック企業という言葉を使わず、左翼教条主義的なアジテートを繰り返すだけでは若年層の助けにならず、そっぽを向かれたままだったろう。住まいの問題についても若年層に特化した取り組みが必要ではないか。

空き家活用陳情葛飾区回答

希望のまち東京in東部は2014年7月8日に葛飾区長宛陳情「若者の自立支援政策を目的とした区内の空き家の実態調査とそれに基づく施策策定の陳情」を提出した。葛飾区からは8月13日付で回答が送付された。江東区回答は課長名義であったが、葛飾区回答は青木克徳区長名義で区長印も押されている。

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葛飾区としては、空き家の実態調査を行う予定はございません。

本区は現在、多様な年齢層が暮らす多世代コミュニティの形成、子育て世帯への居住支援、低額所得者・高齢者等の住宅確保要配慮者の居住の安定に取り組んでおります。

単身若年層への支援につきましては、既存施策のなかで対応させていただきます。

空き家(部屋)の利活用につきましては、宅建団体との情報共有を図っていきたいと考えております。

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葛飾区回答も江東区と同じく空き家の実態調査を行う予定はないとする。単身若年層への支援は「既存施策のなかで対応」とする。これは江東区も同じであるが、江東区回答が「住宅支援給付事業」という具体的な施策で対応するというものであった。これは限定的な施策で住まいの貧困に苦しむ若年層の多くを救済できるものではないと批判できる。

これに対して葛飾区回答は江東区のような限定は書いていない。この点では葛飾区の方が可能性はあるように見える。一方で具体的な説明はないということはシニカルな視点に立てば何もやらないという見方も成り立つ。江東区回答では住宅支援給付事業の説明資料も同封しており、不十分と考えるものの、やることはやろうとする意欲は感じられた。葛飾区の「住宅確保要配慮者の居住の安定」への具体的取り組みに注目する。

葛飾区回答は空き家活用について「宅建団体との情報共有を図っていきたい」とする。江東区回答になかった視点である。宅建団体との情報共有は空き家活用に取り組む上で必要なことである。

世田谷区の空き家活用事例では不動産会社との交渉がネックになったとの報告もなされた。「モデル事業として採用された時点で建物のオーナーと話はしたものの、その後、間に不動産会社が入って以降、意志の疎通が難しくなった」(中川寛子「世田谷区空き家活用フォーラムに見る、空き家等の地域貢献活用のこれから」HOME'S PRESS 2014年4月6日)。不動産会社が空き家活用の意義を理解し、柔軟な対応を可能にするためにも行政との情報共有は有意義である。

空き家活用陳情足立区回答

希望のまち東京in東部は2014年8月12日に足立区長宛陳情「若者の自立支援政策を目的とした区内の空き家の実態調査とそれに基づく施策策定の陳情」を提出した。足立区からは8月20日付で回答が送付された。

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若者の就労と住まいの確保については重要な課題の一つであると認識しております。

今回、ご提案をいただきました件につきましては、今後、足立区の住宅施策を推進するうえでの貴重なご意見として参考とさせて頂きます。

なお、足立区では平成18年4月に住宅マスタープランを策定し、「多様な居住ニーズに対応すること」、「暮らしの安全・安心を支えること」、「暮らしの快適性を確保すること」を住宅政策の基本目標として取り組んでいるところです。

今後とも区政に対するご意見、ご要望をお寄せいただければ幸いです。

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足立区回答は陳情への否定意見がない点で三区の中で最も好意的と評価できる。希望のまち東京in東部陳情は既存の住宅政策を否定するものではない。故に「既存の施策があるから、やらない」は理由にならない。住まいの貧困に苦しむ若年層の未来のために他の事業を中止・縮小してでも実施すべきと考えるが、両立は可能である。既存の施策は施策として、別の施策として参考にする姿勢が建設的である。

三区の回答を比較すると好意的な順に足立区、葛飾区、江東区となる。但し、江東区は既存施策の説明資料も同封しており、具体性はある。三区三様の回答となった理由として、各区の住民に対する姿勢や空き家問題への危機感の差異を考えることができる。

江東区は東京オリンピックもあり、人口増加を見込んでいる。これに対して足立区は消滅自治体と報道されている(「「人口4300万人」ああニッポン 30年後の現実」週刊現代2014年6月21日号)。

空き家活用陳情と住宅・土地統計調査

希望のまち東京in東部陳情が三区三様の回答となった理由として、陳情提出のタイミングの可能性もある。最初に提出した江東区の回答作成と前後して、総務省は7月29日に「平成25年住宅・土地統計調査」を発表した。これは5年毎の統計である。

2013年10月1日時点での総住宅数は6063万戸で、5年前(平成20年住宅・土地統計調査)と比較する305万戸も増加した。そのうちの820万戸が空き家である。空き家率は13.5%(819万6400戸)と2008年の前回調査と比べて0.4ポイント増加し、過去最高を更新した。東京都の空き家の割合は11.1%である。

空き家の内訳は、賃貸用の住宅が52.4%(429万戸)、売却用の住宅が3.8%(31万戸)である。住んでもらいたくても住まい手がいないといった住宅が空き家の過半数を占めている(「空き家率は13.5%、崩れる住宅市場の需給バランス」ケンプラッツ2014年8月8日)。

この空き家増加という統計結果は深刻に受け止められ、報道でも空き家活用が提言されている。「利活用されていない空き家は、見方を変えれば「使いこなしてください」と言っている資源だ」(「820万の空き家と住まいダービー」ケンプラッツ2014年8月1日)。

「全国の820万戸の空き家もまた、寂しさを訴えているのかもしれない。とすれば、子育て世代向けの賃貸住宅やグループホームに転用するなどして、人のにぎわいを取り戻してやりたい」(「産経抄」産経新聞2014年8月4日)。

回答文書の日付からすると、江東区回答は「平成25年住宅・土地統計調査」を踏まえていない可能性がある。葛飾区回答は「平成25年住宅・土地統計調査」を踏まえた可能性があり、それが「空き家(部屋)の利活用につきましては、宅建団体との情報共有を図っていきたい」の回答になった可能性がある。提出が遅れたために「平成25年住宅・土地統計調査」と統計への反響を十分に把握できた足立区回答が最も好意的であったことは筋が通る。

ここからすると既存施策の説明資料を同封するという熱心さのあった江東区回答が、この統計と統計結果に対する反響を前提としたならば、別の回答があったのではないかと考えたくなる。逆に言えば今回の陳情には先進性があったことになる。今後も空き家活用に取り組んでいきたい。









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