書評『世界史の構造』

林田力

柄谷行人『世界史の構造』は世界史を交換様式の観点から根本的に捉え直す書籍である。交換様式から社会構成体の歴史を見直すことにより、現在の資本=ネーション=国家を越える展望を開こうとする。柄谷行人は通俗的なマルクス主義の弱いところを補填している。

マルクスは生産様式に着目していた。これは重要な視点の転換である。生産様式に着目すると、どうしても生産力を増やすという拡大思考に陥りやすい。五ヵ年計画が典型である。生産力を増やすためには中央集権化、規模の経済という話になる。その結果、個人の自由よりも全体の利益を優先する傾向が生じてしまう。スターリンのような独裁者がいなかったとしても、ソ連などの社会主義国家が全体主義化することは必然的であった。

戦後日本は自由主義陣営に属したはずであったが、奇妙なことにアカデミズムではマルクス主義が隆盛した。それも生産力の増大という体制側のニーズに合致していた面があったためである。故に高度経済成長が終わり、低成長時代に入るとマルクス主義も勢いを失った。生産者主導の経済という点では戦後保守政治も革新も似た者同士である。消費者主導の経済から見れば時代遅れになる。

マルクス自体は過剰生産、過剰供給を恐慌の原因とする問題意識を持っていた。これは生産力が増大し、途上国も工業化した現代においてより重要になっている。生産ありきではなく、交換ありきで考えるならば、交換できないほどの生産の無意味さを認識できる。過剰生産、過剰供給の抑制の思想にできるのではないか。

今日でも貧困は深刻な問題であるが、貧困の原因は物の不足ではなく、流通の機能不全である。食品廃棄の一方で餓死者がいる。空き家の増加の一方で住まいの貧困に苦しむ人々がいる。生産力の増大は問題解決にならない。交換様式への着目は的を射ている。

書評『トランスクリティーク』

柄谷行人『トランスクリティーク――カントとマルクス』は、カントとマルクスの思想的基盤に独立小規模事業者の協同組合(アソシエーション)を見出し、資本主義を超えた世界としてアソシエーション論を提言する。これは自由のない旧ソ連的な計画経済も、格差と貧困を拡大する資本主義も否定する私達に新たな可能性を提示する。

本書は第一部でカント、第二部でマルクスを論じている。本書はカントの道徳律の基礎に自由を見出す。「道徳法則は、自由であれということ、同時に、他者をも自由として扱えということにつきる」。これはオーソドックスなカント理解ではないかと考える。ところが、本書によると世のカント理解は「共同体や国家の課す義務に従うことと混同されてしまいがち」とする。そのような世のカント理解(誤解)があるならば、本書の指摘は重要である。

日本の左翼左派には新自由主義への嫌悪感が強いが、本来の新自由主義は国家権力の横暴を否定する思想であった。一方で所謂ネオリベラルには自由に対して他者を踏みにじる自由、他者を搾取する自由と勘違いする風潮がある。現実にブラック企業・ブラック士業、貧困ビジネス、半グレ・ヤンキーなどが社会問題になっている。市民運動の世界でも自己への攻撃はヘイトスピーチ、「安倍死ね」は表現の自由という勘違いがある。

そのようなものが自由であるならば、良識派が自由より規制強化という考えに至ることも理解できないものではない。一方で「自由より規制」の行き着く先がソ連のような社会であり、その失敗を目の当たりにしている立場としては「自由より規制」を無批判に賛美できない。故に自由に基礎を置くカントの道徳律という本書の主張に価値がある。

本書のマルクス論も教条的なマルクス主義とは一線を画している。国家集権的な社会ではなく、アナーキズム的な協同組合を志向していたとする。私的所有と個人的所有は区別される。私有財産の廃止を目指すが、それは国有化ではない。私的所有権は「それに対して租税を払うということを代償に、絶対主義的国家によって与えられたもの」と位置付けたとする。

この説明は国家が何故、企業寄りとなり、個々人を抑圧する側に回るかが理解できる。たとえば住環境を破壊するマンション建設も、固定資産税が納税されれば国家は保護する側に回る。貢納と保護という封建社会と変わらない構造である。さらに本書は消費者運動にも言及する。

「資本への対抗運動は、トランスナショナルな消費者=労働者の運動としてなされるほかはない。たとえば、環境問題やマイノリティ問題をふくめて、消費者の運動は「道徳的」である。だが、それが一定の成功を収めてきたのは、資本にとって不買運動が恐ろしいからだ。いいかえれば、道徳的な運動が成功するのは、たんに道徳性の力によってではなく、商品と貨幣という非対称的な関係そのものに裏づけられていることによってである。資本の運動に対抗するためには、労働運動と消費者運動との結合が模索されなければならない」

日本の生産者中心、労働運動中心の傾向に反省を迫るものである。たとえば三菱自動車不正などの企業不祥事が起きると、従業員や下請け企業の苦境を伝える報道が出てくるが、一番の被害者は消費者である。消費者から見れば従業員や下請け企業も加害者側の人間である。消費者に対して従業員や下請け企業の苦しみへの理解を求めることは産業の存続最優先で我慢しろというに等しい。

一方で消費者運動に対しても道徳性を基盤としながら、不買運動という力が効果を持つと主張する。東急リバブル東急不動産不買運動やFJネクスト不買運動を唱える立場として納得できる。

最後にマルクスの再評価について述べる。マルクス再評価の意義は認める。マルクスの思想はソ連型社会主義とは異なるという主張に肯定できる点は多い。戦後日本の所謂マルクス主義が本当のマルクスの主張と異なるという点ももっと知られてよい。

しかし、マルクスは良いことを言っているということと自分の思想のバックボーンをマルクス主義にすることには大きな差がある。もともとマルクス主義にどっぷりと漬かっていたが、ソ連崩壊で元気がなくなっていた世代にとっては、マルクス再評価はしっくりくるだろう。

これに対して、元々マルクスを評価しておらず、むしろ反面教師としていた世代にとってはマルクスも良いことを言っているというだけでは積極的にマルクスを選択する理由にはならない。良いことを言っている、学ぶことがあるという点では新自由主義思想にも大いにある。マルクスを特別視する理由はない。何故マルクスかという理由がもう一つ必要になるだろう。

『世界史の構造』目次

序説 交換様式論
  1 マルクスのヘーゲル批判
  2 交換様式のタイプ
  3 権力のタイプ
  4 交通概念
  5 人間と自然の「交換」
  6 社会構成体の歴史
  7 近代世界システム
第1部 ミニ世界システム
 序論 氏族社会への移行
 第1章 定住革命
  1 共同寄託と互酬
  2 交易と戦争
  3 成層化
  4 定住革命
  5 社会契約
  6 贈与の義務
 第2章 贈与と呪術
  1 贈与の力
  2 呪術と互酬
  3 移行の問題
第2部 世界=帝国
 序論 国家の起源
 第1章 国家
  1 原都市=国家
  2 交換と社会契約
  3 国家の起源
  4 共同体=国家
  5 アジア的国家と農業共同体
  6 官僚制
 第2章 世界貨幣
  1 国家と貨幣
  2 商品世界の社会契約
  3 『リヴァイアサン』と『資本論』
  4 世界貨幣
  5 貨幣の資本への転化
  6 資本と国家
 第3章 世界帝国
  1 アジア的専制国家と帝国
  2 周辺と亜周辺
  3 ギリシア
  4 ローマ
  5 封建制
 第4章 普遍宗教
  1 呪術から宗教へ
  2 帝国と一神教
  3 模範的預言者
  4 倫理的預言者
  5 神の力
  6 キリスト教
  7 異端と千年王国
  8 イスラム教・仏教・道教
第3部 近代世界システム
 序論 世界=帝国と世界=経済
 第1章 近代国家
  1 絶対主義王権
  2 国家と政府
  3 国家と資本
  4 マルクスの国家論
  5 近代官僚制
 第2章 産業資本
  1 商人資本と産業資本
  2 労働力商品
  3 産業資本の自己増殖
  4 産業資本主義の起源
  5 貨幣の商品化
  6 労働力の商品化
  7 産業資本主義の限界
  8 世界経済
 第3章 ネーション
  1 ネーションの形成
  2 共同体の代補
  3 想像力の地位
  4 道徳感情と美学
  5 国家の美学化
  6 ネーション=ステートと帝国主義
 第4章 アソシエーショニズム
  1 宗教批判
  2 社会主義と国家主義
  3 経済革命と政治革命
  4 労働組合と協同組合
  5 株式会社と国有化
  6 世界同時革命
  7 永続革命と段階の「飛び越え」
  8 ファシズムの問題
  9 福祉国家主義
第4部 現在と未来
 第1章 世界資本主義の段階と反復
  1 資本主義の歴史的段階
  2 資本と国家における反復
  3 1990年以後
  4 資本の帝国
  5 つぎのヘゲモニー国家
 第2章 世界共和国へ
  1 資本への対抗運動
  2 国家への対抗運動
  3 カントの「永遠平和」
  4 カントとヘーゲル
  5 贈与による永遠平和
  6 世界システムとしての諸国家連邦


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