「都知事選挙をめぐって」評

林田力

2014年東京都知事選挙で脱原発運動は宇都宮健児氏支持と細川護煕氏支持に分裂した。それぞれの立場を代表すると言ってよい人物の対談が雑誌『世界』2014年4月号に掲載された。海渡雄一弁護士と河合弘之弁護士の対談「都知事選挙をめぐって」である。海渡弁護士は宇都宮陣営の選対副本部長を務め、河合弁護士は細川候補の勝手連共同代表になった。この対談記事は細川氏を支持した脱原発派の立場や考えが浮き彫りになる。

河合氏は「スタートラインに立ち戻って、勝つとしたらどのような戦略がありえたかと聞かれたら、小泉さんの人気を背景に細川さんが脱原発の票を集めるしか方法はなかったと言うしかない」と明言する(43頁)。これは宇都宮陣営だけでなく、保守層やマスメディアからも批判された、脱原発しか言わずに知名度で押し通す選挙戦術を是とするものである。それは宇都宮陣営の教訓「知名度やその時々の『風』に頼るのではなく、こつこつと市民運動を広げていく地道な努力でしか達成できない」(希望のまち東京をつくる会「2014都知事選挙総括素案」33頁)と真っ向から対立する。つまり、今後も市民派統一候補をめぐって同じような分裂が生じる可能性がある。

考えの相違が確認できたとして、その相違する考えの影響力が気になるところである。細川陣営は河合氏の指摘するような脱原発オンリー路線を採用したが、それを最後まで貫いた訳ではない。選挙戦の終盤になると生活密着課題についても政策を語り出している。細川陣営は終盤になって脱原発オンリー路線を放棄して、路線転換したことになる。

選挙戦終盤での路線転換は思い切った決断である。そこに至るまでには内部で激しい議論があった筈である。もし勝手連に集った市民の働きかけによって細川氏が生活密着課題を公約に掲げるようになったとしたならば、細川陣営にも熱い市民選挙のドラマがあったと評価できる。

ところが、河合氏は「私は外様」(41頁)、「私は選対の外にいた」(43頁)と蚊帳の外であったことを強調する。「あれこれと戦術について提案をしてはみたけれども、残念ながら受け入れてもらえなかった」(45頁)とも述べている。つまり、河合氏らの勝手連は終盤の路線転換に寄与していないことになる。逆に選挙終了後も脱原発オンリー路線しかないと言っていることは、路線闘争の敗者に見える。

結局のところ、「脱原発オンリー路線しかない」は外様の総括であって、路線転換を実現した細川陣営本流の総括にはならない。むしろ「脱原発オンリー路線が大失敗であった」が内部的な総括になっている可能性が高い。

対談は最後に海渡氏が「河合さんが細川さんの応援を一生懸命やってくれたおかげで保守の人の中にもつながりが広がった」と持ち上げて終わっている(47頁)。根本的な対立がある中で対談としては上手にまとまっている。

細川支持層に宇都宮陣営では手が届きにくい保守層がいたことは確かである。一方で勝手連が外様であった実態を踏まえるならば、脱原発派の細川勝手連と細川支持の保守層のつながりを過大評価することはできない。終盤の生活密着課題の公約で細川氏を支持した層もいるだろう。細川95万票を脱原発票と分類することも脱原発派の願望が入っている。

宇都宮支持層から見えやすい細川支持層は脱原発派の細川勝手連であるが、それが細川支持層の全てではないし、メインストリームでもない。脱原発派の細川勝手連だけでは細川陣営を語れないことも分かった対談であった。


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