『美味しんぼ』鼻血描写に風評批判

林田力

雁屋哲原作、花咲アキラ画『美味しんぼ』第604話が風評被害を生じさせると批判されている。『美味しんぼ』第604話は『ビッグコミックスピリッツ22・23号』(2014年4月28日発売)に掲載された。第604話では福島取材から帰ってきた主人公が原因不明の鼻血を出し、井戸川克隆・福島県双葉町元町長が「福島では同じ症状の人が大勢いますよ。言わないだけです」と語る。その続きの5月12日発売号では井戸川氏が「福島に鼻血が出たり、ひどい疲労感で苦しむ人が大勢いるのは、被ばくしたからですよ」と語っている。

これに対して双葉町は5月7日、出版元の小学館に厳重抗議したと発表した。抗議文は「現在、原因不明の鼻血等の症状を町役場に訴える町民が大勢いるという事実はありません」と述べる。その上で以下のように批判する。

「第604話の発行により、町役場に対して、県外の方から、福島県産の農産物は買えない、福島県には住めない、福島方面への旅行は中止したいなどの電話が寄せられており、復興を進める福島県全体にとって許しがたい風評被害を生じさせているほか、双葉町民のみならず福島県民への差別を助長させることになる」

環境省環境保健部も5月8日付で「放射性物質対策に関する不安の声について」を発表した。「東京電力福島第一原子力発電所の事故の放射線被ばくが原因で、住民に鼻血が多発しているとは考えられません」と述べた。これは「不当な風評被害が生じることを避けるとともに、福島県内に住んでおられる方々の心情を鑑みて」発表したものという。

福島県も「福島県民そして本県を応援いただいている国内外の方々の心情を全く顧みず、深く傷つけるものであり、また、本県の農林水産業や観光業など各産業分野へ深刻な経済的損失を与えかねず、さらには国民及び世界に対しても本県への不安感を増長させるものであり、総じて本県への風評被害を助長するものとして断固容認できず、極めて遺憾であります」と抗議した(「週刊ビッグコミックスピリッツ「美味しんぼ」に関する本県の対応について」2013年5月12日)。

また、『美味しんぼ』上の被災地瓦礫の記載についても大阪府と大阪市が以下のように抗議した。「処理を行った焼却工場の存在する此花区役所、同保健福祉センター、此花区医師会に確認をしましたが、処理中においても、その後においても、作中に表現のある「大阪で受け入れたガレキを処理する焼却場の近くに住む多数の住民に眼や呼吸器系の症状が出ている」というような状況はございませんでした」(大阪府・大阪市「平成26年5月12日付:週刊ビッグコミックスピリッツ『美味しんぼ』に関する抗議文について」2013年5月12日)

京都医療科学大学の遠藤啓吾学長は「もし低線量被曝の影響で鼻血が出るのだとしたら、一般の人々より被曝線量の高い放射線技師や宇宙飛行士は鼻血が止まらないことになる」と指摘する(「「美味しんぼ 福島の真実編」抗議相次ぐ 「科学的にありえない」」産経新聞2013年5月13日)。

もともと風評への反発には根強いものがある。東日本大震災報道についての大量標本による質問紙調査でも以下のように風評批判が目立った。「放射能汚染に関して安心感を与える情報が埋もれ、危機感を煽るものが優先している感がある」「同じ国民、得に福島に居住するものとして福島第一原発の放射能被曝に関する『風評被害』には非常に怒りを感じます」(間々田孝夫「東日本大震災の広汎で多様な被害」応用社会学研究No.55、2013年、35頁)

『美味しんぼ』批判の強さには、アンチからのバッシングだけでなく、ファンからの失望という面もある。もともと雁屋哲氏は福島第一原発事故直後に原発を推進してきた政治を批判する一方で、放射脳カルトに与せず、風評を戒めていた。福島第一原発事故直後から会津米の安全性を主張して農家支援のために購入を呼びかけていた。

「福島の真実」編が開始した第110巻では主人公らが福島を訪れ、行く先々で現地の料理を味わっている。福島で農作に取り組む人々を紹介し、風評を批判する。さらに物語としても主要登場人物のルーツ(自分の生えてきた根)が福島にあるとの設定によって福島を応援している。もともと『美味しんぼ』は捕鯨を擁護し、菜食主義者の肉食批判に反論するなど環境ファシズム的な立場とは一線を画していた。

そのような『美味しんぼ』だからこそ、鼻血描写には「失望した」「許せない」という声も強くなる。仮に「福島で原因不明の鼻血が増えている」という認識が世の中には存在することを尊重したとしても、それを『美味しんぼ』が描くことには違和感がある。逆に『美味しんぼ』の鼻血描写に喝采する人々も、福島の農業の復興を応援する「福島の真実」編のスタンスを理解しているか疑問がある。『美味しんぼ』作者が鼻血描写の擁護意見に依拠するならばファンの維持拡大という点で不安定になる。

第604話が『美味しんぼ』らしからぬ描写に走った一因としてライバル誌の動きもあると思われる。『モーニング』に掲載された竜田一人『いちえふ〜福島第一原子力発電所労働記〜』は原発事故収束作業員のルポタージュである。福島第一原発事故収束作業の実態を把握したい向きは読むべき漫画である。『いちえふ』には竜田氏の主張も込められているが、脱原発運動に批判的である。その批判は脱原発運動そのものに対するものではなく、放射脳カルトへの批判であり、脱原発運動=放射脳カルトと竜田氏に映っていることが不幸である。これは竜田氏個人の認識にとどまらず、世間の見方に通じている。

私は『いちえふ』にブラック企業擁護の論理との共通性を見出して批判した(林田力『東急不動産だまし売り裁判17』「『いちえふ』放射脳カルトとブラック企業」)。それでも『いちえふ』には福島第一原発事故収束作業の生々しさがある。好むと好まざるとに関わらず、『美味しんぼ』の原発批判を霞ませる迫力があることは認めざるを得ない。このような状況下でインパクトを求めて鼻血描写に走ったとは考えられないだろうか。しかし、そのような方向性は『いちえふ』的なスタンスを一層王道にしてしまうだろう。これは脱原発運動においても考えるべきことである。


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