マルクス・アホダラ教

林田力

マルクス・アホダラ教という表現は戦後日本の通俗的マルクス主義の問題を的確に風刺しており、言い得て妙である。戦後日本政治の根本的な問題を挙げるならば官僚支配と土建国家である。これらは長らく問題と認識されていたが、今に至るも克服されていない。これらを体制側が維持しようとすることは当然であるが、体制批判の側もマルクス・アホダラ教に侵されて本気で批判していなかった。それが官僚支配と土建国家が永続した一因である。

通俗的マルクス主義は市場の不信を徹底しているために、官僚の経済主導への問題意識が低くなる。新自由主義のような異分子に対しては頑強に抵抗するが、官僚支配や土建国家には微温的な態度になる。結局のところ、戦後日本では体制内批判派の通俗的マルクス主義と体制派のケインズ主義の同盟が成立していた。

通俗的マルクス主義と無縁の民主党が自民党政治の代案として政治主導や「コンクリートから人へ」を掲げたことは偶然ではない。これは通俗的マルクス主義では出てこない思想である。民主党政権の結果から民主党の内実を批判することは容易であるが、このような思想が掲げられただけでも大きな意義がある。たとえ看板だけ掲げただけであっても、通俗的マルクス主義に比べれば大きな進歩である。

通俗的マルクス主義が必死に批判する新自由主義も、官僚支配や土建国家を批判する点では進歩的な側面を持つ。新自由主義が改革派であり、通俗的マルクス主義は旧体制派・既得権益擁護者に映る。現代日本では体制に不満を持つ人が多いにも関わらず、本来ならば不満者を吸収すべき左翼は衰退している。それは通俗的マルクス主義が官僚支配や土建国家の根本的な批判になっていないことが一因である。

この点は世代間ギャップも大きい。マルクス・アホダラ教は「高度経済成長期は良かった、今の新自由主義的改革が社会を悪くした」という意識が強いように見える。それは戦後体制そのものが世代間不公平を生み出したとの批判的視点が欠ける。まさに既得権擁護者に映る。

マルクス・アホダラ教批判はマルクス主義そのものへの批判ではない。マルクス自身が「計画経済がいい」と言った訳でもない。戦後日本での通俗的マルクス主義の現れ方を問題視している。官僚支配や土建国家を否定するという問題意識を持ってマルクスを読み解くことは有意義なことである。それは大いにやってもらいたい。

しかし、マルクスの読み直しは決して容易なことではない。マルクス主義の名の下に計画経済の全体主義体制が存在したという事実がある。ソ連型社会主義が真のマルクス主義ではないと批判することはできる。

しかし、戦後の通俗的マルクス主義がソ連型社会主義を批判できていたかは疑問なしとしない。ソ連や中国の実態を知らなかったと言い訳は可能かもしれないが、通俗的マルクス主義にソ連型社会主義を批判する思想的な内実があったとも思えない。日本の官僚支配にすら切り込めない通俗的マルクス主義にソ連の全体主義を批判する深みがあるとは思えない。

もし冷戦期からソ連共産党や中国共産党を批判していたマルクス主義者ならば、マルクス主義からの官僚支配・土建国家批判の可能性が出てくるかもしれない。そうでないならばマルクス主義からの脱却を志向することが自然になる。


マルクス・アホダラ教とダブルスタンダード

「マルクス・アホダラ教」の問題意識は通俗的マルクス主義が現代日本に通用しないということであった。それどころが通俗的マルクス主義では官僚支配や土建国家という現代日本の問題に対して体制擁護の論理として機能する危険がある。その意味でDavid Harveyのように現代社会においてマルクス主義を解釈しようという姿勢は有意義である。

管見の危惧はHarveyそのものよりも、権利意識の低い日本でコモンズのような考え方がもてはやされると、市民運動が私権を制限して行政目的に奉仕させる官僚のお先棒を担ぐことになりかねないという点にある。通俗的マルクス主義批判の延長線上のものである。

日本の市民運動界隈では原始共産制への無意識的な憧れが感じられる。それは国家による個々人の所有権侵害に対する問題意識の弱さの背景になっている。それが通俗的マルクス主義となるが、マルクスならば「空想から科学へ」と主張するだろう。現代社会においてマルクス主義を突き詰めることも通俗的マルクス主義批判の一つのアプローチになる。

その上でコモンズ論にコメントしたい。コモンズ自体は善なるものではなく、価値中立である。Harveyが例に挙げるように富裕層のゲーテッドコミュニティーもコモンズである。故にコモンズの増加を無条件で賛美することはできない。ナイーブな原始共産制賛美のユートピア主張とは異なる。

良いコモンズもあれば、悪いコモンズもある。従って私権重視かコモンズ重視かの二分法ではなく、良いコモンズを増やし、悪いコモンズをなくすことが方向性になる。この場合、良いコモンズとは何かが問題になる。自分達にとって都合の良い運動が公共空間を占拠することは善で、大資本のためのコモンズは悪と主張するならば、ダブルスタンダードになってしまう。

Harveyはコモンズから様々な新たなコモンズが生まれるような場を志向しているが、これは難しい。道路を占拠したならば通行路としての機能は排除される。広場を占拠したら、景観が変わってしまう。デモ側にとっては既存秩序の象徴になっている景観をデモで埋め尽くすことが、コモンズを奪い返すことになる。だから正当化されるが、万人にとって良いコモンズではない。既存秩序の支持者側に開かれたものではない。

運動内部でも脱原発のデモで労働組合の旗を立てることが規制されたように、コモンズは必ずしも万人に開かれたものではない。運動主体が多様性を尊重する姿勢を持つことは重要である。しかし、何らかの目的を持った運動である以上、価値中立ではない。

また、多様性尊重はレッセフェールを必ずしも意味しない。脱原発デモで労働組合の旗を立てさせないことが逆に参加者の多様性をもたらすという面もある。過激派を引っ込ませることが穏健派の発言権を確保することになる場合もある。

開かれた姿勢を持つことは大切であるが、そこには限界があり、コモンズが誰かの不利益になることは否定できない。結局のところ、自分達の利益になるから良く、自分達の不利益になるから悪いという御都合主義に陥りかねない。それではブラック企業やブラック士業を批判できなくなる。

日本のコモンズの例として派遣村や官邸前デモが挙げられる。それに異論はない。もう少し突き放して考えられる経済産業省前テントひろばについて考察する。土地所有者の立場としては、テントひろばのような論理で占拠されたらたまらないという思いは共感できる。「自分達の主張は正しいから、それに土地所有者も協力しろ」は独善である。

仮に使用していない土地で占拠されることに実害がなくても、自己決定権を無視する形で占拠されたならば排除することに全力を尽くす。それが一生懸命の語源となった一所懸命以来の土地所有者の心意気である。

派遣村は緊急避難的な意味で占拠の必然性が感じられる。官邸前デモは政策決定権者への示威であり、目的と手段が結び付く。これに対してテントひろばの占拠は他に脱原発のアピール方法が存在する中で必然性は弱い。

占拠対象は主権在民の日本政府機関である経済産業省であり、私人の所有地とは異なるという論理も考えられる。確かに経済産業省は脱原発派の国民のためのものであるが、同じように原発推進派のものでもある。脱原発派の占拠だけを優遇することは不公正になる。また、公用物と公共用物の区別もある。

脱原発運動が経済産業省の敷地の一部を占拠することは、原子力村にとって不愉快な事態だろう。だからテントの正当性への疑いを口に出すよりも、テントを擁護することが脱原発派として正しい態度であるとの考えもあるだろう。しかし、それは脱原発のためならば何をやってもいいという御都合主義そのものになる。

自分達には甘く、相手には厳しいダブルスタンダードは、旧日本軍や日本の官僚機構、不祥事企業と同じであり、とても公正なものとは思えない。ところが、通俗的マルクス主義にはダブルスタンダードの正当化に利用できる理論も用意されている。階級闘争論である。総労働対総資本の総力戦と位置付け、「総労働の側に立つならば、総資本を攻撃することだけを考えろ」となる。

この立場では以下のようなダブルスタンダードも問題とは認識されないのだろう。鈴木章浩東京都議のセクハラ野次は批判するが、野田国義参議院議員の「懇ろ」野次は話題にもならない。また、鈴木都議には辞職を迫る人が、安倍首相が小学4年生詐称の青木大和氏を批判したことに対しては「今回の失敗にめげずに社会に問題提起を続けてほしい」的な寛容なメッセージを出すべきだったと安倍首相を批判する。

意識的か無意識かは別として通俗的マルクス主義の階級闘争論を背景にすると、これを不自然とも思わないのだろう。しかし、これは通俗的マルクス主義を共有しない市民には通用しない。ダブルスタンダードとしては市民からは反感の対象になり、自民党を利する結果となった。マルクス・アホダラ教の病理は深刻である。

これはあくまで通俗的マルクス主義の弊害であり、階級闘争論が必然的にダブルスタンダードになると主張するつもりはない。現実に階級闘争論に立つ政党でも身内に厳しいところもある。その厳しさは市民的自由と相容れないと市民派から否定的に評価される傾向があった。その認識は私も共有するところがあるが、前述のダブルスタンダードの実態を踏まえると、その厳しさにも意味があるのではないかとの考えも出てくる。




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