国家戦略特区と江東区

林田力

国家戦略特区は2013年12月7日に成立した国家戦略特別区域法に根拠を持つ制度である。国家戦略特別区域法は第1条で目的を以下のように定める。

「この法律は、我が国を取り巻く国際経済環境の変化その他の経済社会情勢の変化に対応して、我が国の経済社会の活力の向上及び持続的発展を図るためには、国が定めた国家戦略特別区域において、経済社会の構造改革を重点的に推進することにより、産業の国際競争力を強化するとともに、国際的な経済活動の拠点を形成することが重要であることに鑑み、国家戦略特別区域に関し、規制改革その他の施策を総合的かつ集中的に推進するために必要な事項を定め、もって国民経済の発展及び国民生活の向上に寄与することを目的とする。」

最終目的を「国民経済の発展及び国民生活の向上」とするが、「産業の国際競争力を強化するとともに、国際的な経済活動の拠点を形成することが重要」という考え方に立っている。この国際競争力強化と国際的な経済活動の拠点形成を実現する手段が「社会の構造改革を重点的に推進」である。

つまり、国家戦略特区は海外とのビジネスを念頭に置いたものである。規制緩和によって経済を発展させ、国民生活を豊かにするという考え方には一定の支持がある。縦割り行政の天下りのために国民生活を阻害する不合理な規制が存在することは事実である。しかし、国家戦略特区の規制緩和は海外とのビジネスのためのものに過ぎない。一般的な規制緩和推進論からはストレートに国家戦略特区が肯定できるものではない。

国家戦略特別区域法は、日本が国際競争力を持つことが、めぐりめぐって国民生活を向上させるという考え方に立っている。現在の生活水準を維持するためには日本が国際競争力を持たなければならないという考え方も成り立つ。それでも特区の直接的な狙いが海外とのビジネスであって、国民生活向上を直接狙ったものではないと言うことができる。海外とのビジネス優先の構造改革によって地域住民の生活が壊されるリスクがある。

国家戦略特区が経済を念頭においていることは第2条の戦略特区の定義で一層際立つ。ここでは特区で実施する事業が色々と並べられているが、大別すると「その他の産業の国際競争力の強化に資する事業」と「その他の国際的な経済活動の拠点の形成に資する事業」に集約される。やはり国際競争力強化と国際的な経済活動の拠点形成が二本柱である。究極目的は「経済社会の活力の向上及び持続的発展」となっており、「国民生活の向上」は抜け落ちている。経済特区によって生活の向上を期待することは非常に迂遠なことである。

「この法律において「国家戦略特別区域」とは、当該区域において、高度な技術に関する研究開発若しくはその成果を活用した製品の開発若しくは生産若しくは役務の開発若しくは提供に関する事業その他の産業の国際競争力の強化に資する事業又は国際的な経済活動に関連する居住者、来訪者若しくは滞在者を増加させるための市街地の整備に関する事業その他の国際的な経済活動の拠点の形成に資する事業を実施することにより、我が国の経済社会の活力の向上及び持続的発展に相当程度寄与することが見込まれる区域として政令で定める区域をいう。」

国家戦略特区は政令で定める。東京都の特区エリアは千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、江東区、品川区、大田区、渋谷区である。政府は都全域の指定も検討したが、雇用や外国人労働者の受け入れなどの規制緩和に難色を示す自治体もあって、上記エリアに限定された(「国家戦略特区の政令案を自民了承」産経新聞2014年4月17日)。

江東区は国家戦略特区について大型開発(容積率緩和)やカジノが言及されている。江東区議会・平成25年第4回定例会では特区について以下の質疑がなされた。

そえや良夫区議(日本共産党)「オリンピックに便乗した規制緩和・大型開発の中止を求め、特に社会的悪影響の強いカジノ誘致方針は、撤回すべき」

都市整備部長「特区制度等を積極的に活用し、カジノ合法化の中止を求める考えはない」

見山伸路区議(江東再生会議)「新木場地域について、国家戦略特区制度を活用した外国人に魅力的な街をゼロベースから生み出せるのではないか」

区長「地権者の自主的な取組みを支援するため、臨港地区や用途地域の変更、地区計画や再開発誘導地区の指定を都へ働きかけ、開発の環境整備を進める」

もともと大型開発については開発業者の要望を受けて特区が指定されたとの説明もあるほどである。「用地基準の緩和など、民間のディベロッパーから具体的な要望が上がっている地域に関しては指定している」(おときた駿「東京都にもある「南北問題」、特区が格差を助長する?」2014年4月24日)。一方で江東区では現時点でも越中島のトラックターミナルや東陽町のオフィスビルなどで建設反対運動が起きており、これ以上の緩和は建築紛争を激化させる。

国家戦略特区に比べて地域主導色が強い総合特区制度では江東区内から単なる開発推進ではない提案がなされている。NPO法人・江東区の水辺に親しむ会の提案「水彩環境都市 新砂プロジェクト」である。この提案は「超高層を排除して、物流生産機能以外は、「コンクリートから木」を目指して、わが国の木材を生かしたLCC低炭素モデル都市づくり」を目指す。そのために「工業専用地域における構造・用途の制限を緩和して、中層木造住宅等を建設する」特例などを求めている。

カジノは統合型リゾート(IR)推進法のアプローチが進められているが、IR推進法だけではカジノの制度設計はなされない。いずれにしても江東区は有力候補である。お台場カジノと呼ばれることが多いが、実は江東区青海1丁目が計画地である。フジテレビや三井不動産、鹿島など計画案は、カジノを併設した巨大ホテルや商業施設、国際展示場を設置する24時間型のスマートシティーとする。それとは別に若洲海浜公園への誘致案もある(伊藤博敏「候補地はお台場だけじゃない!「統合型リゾート推進法」成立確実で思惑入り乱れる東京カジノ事情=v現代ビジネス2014年2月6日)。

また、山崎孝明・江東区長は中央防波堤埋立地へのカジノ誘致を述べている(「江東区長大田区長 「羽田沖領土紛争」で誌上激論」週刊ポスト2012年11月30日号)。山崎区長は都議時代にも「カジノは新たな観光資源の一つであると同時に、産業、雇用の分野にも大きな効果があり、税収の確保にも大きく貢献することが期待されております」とカジノ推進を求めていた(東京都議会・平成14年第3回定例会、2002年9月25日)。

中央防波堤埋立地は大田区との間で帰属が争われている土地である。山崎区長は「この埋立地は、長年にわたり、ごみの終末処理をすべて負わされてきた江東区民の犠牲の上に造成された土地であり、本区に帰属することは明白であります」と主張する。

その埋立地にカジノを誘致するとの区長の主張はブログで以下のように批判された。「だったら、江東区民はカジノが欲しくて、ハエや、ごみ運搬車の排気ガス、道路の渋滞に耐えてきたのか」(「江東区にカジノが?」プンダリーカの部屋2013年11月21日)。

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