スカパー巨大アンテナ反対運動

林田力

東京都江東区ではスカパー巨大アンテナ建設に反対運動が起きている。これは衛星放送の株式会社スカイ・パーフェクト・コミュニケーションズ(以下、スカパー)が江東区新砂にスカパー東京メディアセンターを建設しようとする問題である。東京メトロ東陽町駅から徒歩5分の場所である。

屋上には衛星送信用の巨大パラボラアンテナと受信用パラボラアンテナを設置する計画である。直径約7m〜8mの巨大なパラボラアンテナを12基、直径約4mのパラボラアンテナを6基設置する。2006年に建設計画が発表された。周辺は住宅街であり、建設地はマンションに隣接している。電波の送信方向にもマンションがある。

アンテナから発生する電磁波は、近隣住民の健康被害を引き起こす懸念があるために隣接するマンションを中心に住民の反対運動が起きている。2007年にアンテナ設置差し止め請求訴訟を東京地裁に提起した。住民が申請した電磁波の専門家の証人尋問が行われたばかりで、次回は反対尋問が行われる。電磁波の健康被害という点から携帯電話の基地局の建設反対運動などとも連携し、運動を進めている。

パラボラアンテナ建設は景観問題でもある。この意味で口径の大きいパラボラアンテナならば周辺環境への影響は少ないというような主張は住民感情から言えば噴飯物である。加えて近接のマンション分譲主の一社である竹中工務店が、マンション分譲後に隣接地(自社所有地)にスカパーを誘致し、嫌悪施設の施工を行うことは信義則上問題ないかという論点もある。

林田力は2011年11月7日、景観と住環境を考える全国ネットワーク首都圏ネットワーク「マンション紛争・都市問題首都圏交流サロン」(東京都千代田区の富士見区民館)でスカパー問題について報告した。



スカパー巨大アンテナに反対する住民の会が主催する住民大集会が2008年3月2日、江東区教育センターで開催された。約160人(主催者発表)という大勢の参加者が詰め掛け、電磁波問題に対する関心の高さを示した。

同会は東陽町の住民を中心に結成され、スカパーによるパラボラアンテナ設置に反対する団体である。建設地の真向かい30メートルの至近距離にはマンションがあり、周辺には集合住宅やオフィスビルが林立する。そのような人口密集地でのパラボラアンテナ設置により、近隣住民は電磁波を24時間浴びる環境になり、人体のみならず精神に悪影響を与えるため、アンテナの設置を中止すべきと、同会は主張する。

同会では提訴や区議会への陳情、署名活動などを展開しているが、一方でスカパー側は工事を進め、既成事実を作ろうとしている。しかし同会が集会で160人もの参加者を集めたという事実は反対運動の広がりを物語っている。

集会の内容は以下の通りである。

・住民の会代表挨拶

・弁護団による解説

・江東区議会議員紹介・挨拶

・荻野博士による講演

・集会決意

最初の代表挨拶では門川淑子代表が状況を報告した。近隣住民らは2007年1月19日、スカパーに対し、アンテナ設備建設の差し止めを求めて東京地方裁判所に提訴し、係属中である。2008年1月28日で7回目の口頭弁論が行われた。また、東陽二丁目町会会長が江東区議会や東京都議会に陳情を提出した。

続いて、原告弁護団による解説である。弁護団は榎本武光、鳴尾節夫、中村欧介、高木一昌、中村悦子の5人の弁護士からなる。高木弁護士が代表して「スカパー裁判のこれまでと今後」と題し、これまでどのように戦い続け、これからどのような戦いをすべきかと語った。

高木弁護士は最初に裁判の根拠を説明する。スカパーによるパラボラアンテナ設置で周辺に生活している人は不利益を被る。電磁波は人体に悪影響を及ぼすため、健康・安全に毎日を暮らしていく権利が侵害される。スカパーの経済的利益のために人として生きていく権利が脅かされる。これが差し止めを求める根拠である、と。他にも被侵害利益として精神的苦痛、日照・景観の阻害、嫌悪施設ができることによる資産価値低下を挙げる。

スカパーの問題は住民の権利を侵害する実体面だけでなく、住民に対する姿勢という手続き的な面にもあるとする。住民とスカパーの間に話し合いと呼べるものはなかった。理解を求める努力をせずに事業を進めようしている。話し合いのコミュニケーションがないまま、工事だけが進んでいる。

そして不誠実な姿勢は裁判手続きにおいても現れている。裁判において原告弁護団は被告側に求釈明(説明を求めること)を行ったが、スカパー側の回答は具体的内容ではなく、人を食った回答ばかりであった。

例えば「東陽町以外の場所にメディアセンターを建設することは検討しなかったのか」という問いには、検討場所として複数の地名を挙げるのみで、検討場所の具体的な地番や検討内容、選ばれなかった理由を開示しない。原告弁護団としては不十分な回答に対しては再度、求釈明を行うが、「裁判の中でもスカパーの対応には問題があることを心にとどめて欲しい」と強調した。

続いて裁判の争点について説明した。裁判の争点は、パラボラアンテナから発する電磁波は人体に悪影響を及ぼすか、である。この点について国内はもとより世界各国の研究結果を入手して立証を続ける方針とする。

スカパー側は「電波防護指針」を下回っているから問題ないと主張するが、日本の電波防護指針は先進諸国の基準に比べて緩やかである。しかも電波防護指針は熱効果を念頭に置き、生理的効果や免疫系やガンなどの非熱効果による健康影響の予防を考慮していないと主張する。

弁護団による解説後は休憩を挟み、出席した江東区議会議員が紹介された。斉藤信行、前田かおる、薗部典子、中村まさ子の各議員が紹介され、代表して斉藤議員が挨拶した。斉藤議員は区議会建設委員会の委員長で、建設委員会ではスカパー問題の陳情を審議中である。

斉藤議員は自らをスカパーとメディアセンターを施工する竹中工務店に憤りを感じている一人とする。建設委員会で建設現場を視察したが、両者は係争中であると主張して議員を現場に入れさせず、説明もしなかった。仕方がないため、隣のマンションから視察したという。

また、両者に電話で連絡したが、「責任者は留守」「社長は不在」の一点張りで、伝言を依頼しても連絡は皆無であった。2008年2月1日には委員長名で両者の社長宛に文書で申し入れをしたが、本日に至るまで何の音沙汰もない。区民の代表である区議会さえ、ないがしろにする対応である。一方で住民の戦いが両者を追い詰め、殻に閉じこもらざるを得なくなっているとも言える。「皆さんの戦いは地域住民の健康を守るだけでなく、電波行政にも影響を与え、各地の戦いの励みにもなる。共に頑張りましょう」と結んだ。

続いて荻野晃也・電磁波環境研究所所長(理学博士)による「電磁波による健康への影響について」と題した講演である。最初にメディアセンターの建設現場を見たと語る。「このようなところに、何でパラボラアンテナを作るのか」と悲しい気持ちになったとする。

荻野博士は「健康とは何かということを理解して欲しい」と語る。世界保健機関は健康を以下のように定義する。「健康とは身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態であり、たんに病気あるいは虚弱でないことではない。(Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.)」

健康には精神的・社会的に良好な状態も含まれ、現実にパラボラアンテナが稼動して電磁波が発信され、ガンや小児白血病にならなくても、現在の状態でもスカパーは周辺住民を不健康にしていると主張する。

本論の電磁波の健康被害については世界中の研究成果を基に様々な問題を指摘した。

・電磁波の人体の影響には熱効果と非熱効果がある。規制は熱作用のみを対象とされがちだが、近年の研究では熱作用を起こすレベルよりも低い電磁波レベルで様々な生体への影響が出ることが明らかになっている。

・電磁波は大人よりも子どもに悪影響を及ぼす。携帯電話の電磁波が大人の頭よりも子どもの頭の方が遥かに深く貫いていることを示した研究がある。

・世界各地の疫学研究では放送や携帯電話のタワー周辺で白血病やガンが増加する。例えば韓国での研究では放送タワーの2km以内の小児白血病の増加率は2.29%である。

・スペイン北部のバラドリッドの調査では携帯電話のタワー周辺のコウノトリの巣ではヒナがいない巣が急増する。

・電磁派に過敏な人が増加している。電磁波で免疫機能が低下し、心臓圧迫、ストレス、精神不安、頭痛、睡眠不足などを引き起こす。

・日本で死産した胎児の性比を研究した結果、女子死産100人に対する男子死産の割合が1970年ごろから急激に増えていて、最近では220人を超えた。妊娠初期の12〜15週の死産に限定すると、男子は女子の10倍にも達していた。

参加者からの質疑応答ではパラボラアンテナ設置による悪影響について指摘された。

・パラボラアンテナが地震や災害で倒壊する危険性。アンテナは軌道上の人工衛星と通信するが、アンテナが倒壊すれば住民に向かって強力な電磁波が放射されることになる。

・電磁波が天空に向かって放射されるということは、付近のマンションは建て替えにより、高層化することが難しくなる。建て替えで容積率を活かせないマンションとなり、資産価値を低下させる。

最後に原告団長から集会決意が読み上げられた。スカパーは自社の経済的利益のために住宅密集地にパラボラアンテナを建設しようとする。原告団は勝利するまで戦うことの責務を感じている。戦いは容易ではないが、多くの力を結集すれば勝利は可能である、と(林田力「人口密集地への巨大パラボラ乱立に猛反発」オーマイニュース2008年3月9日)。

     
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