江東区の官製ワーキングプア

林田力

官製ワーキングプアはワーキングプアの公務労働者である。ワーキングプアは生活保護水準以下の暮らししかできない労働者を指す。官製ワーキングプアの問題性は、ワーキングプアという社会的課題を解決すべき行政がワーキングプアを生み出しているということにある。

官製ワーキングプアは非正規公務員と民間委託に大別される。江東区の非常勤保育士は「7年働いて月収10万円ちょっと」であり、空いた時間でアルバイトをこなしている(樫田秀樹「官製ワーキングプアの今と展望」世界2009年6月号)。

非正規公務員は非常勤職員と臨時職員に分けられる。非常勤職員には特別職非常勤職員と一般職非常勤職員がある。特別職非常勤職員は「臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱託員及びこれらの者に準ずる者の職」である(地方自治法3条3項3号)。

臨時職員は非正規以上に問題が大きい。臨時職員は産休や病休する職員の代わりや年度末の繁忙期の要員である。そのために契約期間は最長半年で、更新は一度だけという制限が地方自治法で定められている。

地方公務員法第22条第2項「人事委員会を置く地方公共団体においては、任命権者は、人事委員会規則で定めるところにより、緊急の場合、臨時の職に関する場合又は任用候補者名簿がない場合においては、人事委員会の承認を得て、六月をこえない期間で臨時的任用を行うことができる。この場合において、その任用は、人事委員会の承認を得て、六月をこえない期間で更新することができるが、再度更新することはできない。」

ところが、実態は非常勤職員であるにも関わらず、脱法的に臨時職員として雇用するケースがある。脱法ハウスや脱法ハーブなど「脱法」は社会問題のキーワードになっているが、官製ワーキングプアの世界にも脱法がある。このような臨時職員は「擬似臨職」とも称される。東京都江東区の疑似臨職の実態が以下に説明される(樫田秀樹「官製ワーキングプアの今と展望」世界2009年6月号)。

***

東京都江東区の学童クラブの臨時職員、広瀬夏美さんは同じ仕事を3〜4年も続けている。廣瀬さんは、その種明かしをしてくれた。

「私は年に11ヶ月働きます。そこでいったん雇い止めにされ、1ヵ月の空白期間をおいて、また『新たに任用』されるんです」

つまり、自治体は「一年以上の継続任用はしていない」、「たまたま同じ人を新たに任用した」との体裁を整えているのだ。

***

江東区では2012年4月1日時点で正規職員2792人に対して、非正規職員492人(男性48人、女性444人)である。非正規職員の内訳は以下の通りである。一般職非常勤職員がいない点は他の東京都特別区と共通する。

特別職非常勤職員399人(男性38人、女性361人)

一般職非常勤職員0人

臨時的任用職員301人(男性10人、女性83人)

江東区の非正規化率は15%であり、特別区全体の24.9%を下回っている。非正規化率が低いことが好ましいこととは限らない。民間委託により、非正規職員を雇止めした結果、非正規職員が減少した可能性があるためである。実際、図書館窓口業務を民間委託した江東区は「江東は職員の減らし方が激しい。二年目でもう半分近くになっています」と指摘されている(「図書館の委託 [座談会]委託はどこまで拡がるのか 東京二三区の図書館民間委託を徹底討議」ず・ぼん9)。

江東区の特徴は女性の割合が高いことである。女性割合は90%で、全国平均74.2%を大きく超え、区部のトップである(上林陽治「非正規公務員と間接差別〜東京都内自治体の非正規化の現状を踏まえて〜」自治総研2013年10月号10頁)。

非正規公務員のワーキングプア打開策は、一般の労働問題と同じく月並みであるが、労働運動である。公共一般江東支部青年部の2007年の取り組みがある(樫田秀樹「官製ワーキングプアの今と展望」世界2009年6月号)。

***

区内の民間企業178ヶ所でのアルバイトやパートの募集要項をデジカメで撮影し、データベース化し、その賃金を区の臨時職員の時給890円と比べてみたのだ。

すると、ほとんどの事業所で時給は890円を越え、高校生のアルバイト代の方が高いのもザラ。支部はこの数字を基に当局と交渉すると、07年4月、長年据え置きだった時給が930円に上がったのだ。

***

江東区の民間委託

民間委託は公務員が担当していた業務(出張所や図書館の窓口業務など)を民間に委託することである。民間企業は非正規労働者を雇用して業務を受託することが多いため、行政が非正規労働者を生み出すことになる。

非正規化は全ての業態で進行しているが、特に民間委託は非正規化しやすい。何故ならば民間委託は数年契約など契約期間が定まっていることが通常であり、契約期間満了時には新たに入札して委託先を選定する。これは民間委託が特定企業の利権化しないための措置で、これ自体は当然である。しかし、受託企業としては継続性が保証されないために非正規労働者に頼りがちである。

民間委託は中間搾取のピンハネビジネス化している面もある。江東区の図書館窓口業務は「委託料として区が一時問1600円余り払い、働き手に払われるのが800円台。区の税金が企業に吸い込まれるだけです」という(鈴木由美子「中野区民誰もが「図書館のある町」で暮らすために」区立図書館を考える走り書き通信 1号2003年8月20日)。

江東区は図書館窓口業務の民間委託先進自治体であるが、プライバシーや守秘義務を無視した運用で問題になった。

「委託の職員がある予約の資料を早く借りたいがために利用者になりすまして図書館に遅いぞと電話をした。あなたは誰ですかと聞いたら次の順番の人の家族だと言ってしまった。ところが偶然にもその電話に出た職員が次の順番の本人だったわけで私にはそんな家族はいないということでばれてしまった。そこで二重に、データを私的な目的で流用したということと、他人になりすましたということで大きな問題になってしまった」(「図書館の委託 [座談会]委託はどこまで拡がるのか 東京二三区の図書館民間委託を徹底討議」ず・ぼん9)

江東区が民間委託を推進する本音には労働運動への忌避があると指摘される。江東区の図書館長は「非常勤職員を雇い続け、区内の雇用を増やし、わが町の図書館員を育てたほうが、江東区民の税金を生かす道ではないか」との質問に対し、「いや、非常勤を雇うと、労働運動をされるというリスクがあるんですよ」と回答したという(鈴木由美子「中野区民誰もが「図書館のある町」で暮らすために」区立図書館を考える走り書き通信 1号2003年8月20日)。

片山善博氏は総務相時代に記者会見で指定管理制度が図書館など本来指定管理になじまない施設にも適用され、コスト削減の道具に使われているとした上で、「結果として官製ワーキングプアを生み出している自覚と反省が必要だろう」と指摘した(「指定管理者制度/課題あるからこそ透明性を」河北新報2013年12月19日)。

以下のようにも述べている。「指定管理の真の目的は行政の質的サービスの向上。民間の力を活用して体育、文化施設などを柔軟に運営する狙いだった。ところが、経費の切り詰めに利用し始め、国から職員定数削減を求められると図書館などを指定管理にした。指定管理の図書館スタッフはたいてい給料も安く、ワーキングプア状態です」(「<番外編>片山善博慶大教授に聞く 市民の自立助ける図書館」東京新聞2013年12月16日)

江東区議会のブラック企業・ワーキングプア質疑

大つきかおり江東区議は民間委託が官製ワーキングプアを作り出していると批判する(大つきかおりのかもめ通信「江東区24年度一般会計決算は51億円の黒字 基金は830億円に」2013年10月7日)。

***

24年度も区は、保育園の給食や学校用務、警備の機械化による業務委託を実施しました。この間、日本共産党区議団は、委託化によって、区自らが、官製ワーキングプアを作り出しているという問題を指摘してきました。

(中略)

私は、区は指定管理で働く職員の正規と非正規の割合や平均年収、勤続年数など実態をきちんとつかむべきではないのかと質しました。

これに対し、「ワーキングプアを作っているという認識はない」「労働条件は、企業の労働契約の中で決めている」と企業任せの姿勢に終始しました。

***

平成25年第3回定例会で斉藤信行江東区議はブラック企業、非正規職員、民間委託の問題について総合的な質問をした。江東区はブラック企業の根絶に向けて関係機関と連携して取り組むべきである。ブラック企業に対して入札や契約、物品発注を制限すべきである。労働者の権利意識を高めるためにポケット労働法の配布や講座の開設などをすべきである。江東区の非正規職員の賃金を引き上げ、労働条件を改善すべきである。公契約条例を制定すべきである。

江東区は入札の制限について指名停止基準、非正規職員の労働条件について法令の遵守による適切な対応を約束したものの、それ以外について「考えていない」と答弁した。


     
【既刊】『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』『東急不動産だまし売り裁判購入編』『東急不動産だまし売り裁判2リバブル編』『東急不動産だまし売り裁判3』『東急不動産だまし売り裁判4渋谷東急プラザの協議』『東急不動産だまし売り裁判5東京都政』『東急不動産だまし売り裁判6東急百貨店だまし売り』『東急不動産だまし売り裁判7』『東急不動産だまし売り裁判8』『東急不動産だまし売り裁判9』
『東急不動産だまし売り裁判10証人尋問』『東急不動産だまし売り裁判11勝訴判決』『東急不動産だまし売り裁判12東急リバブル広告』『東急不動産だまし売り裁判13選挙』『東急不動産だまし売り裁判14控訴審』『東急不動産だまし売り裁判15堺市長選挙』『東急不動産だまし売り裁判16脱法ハーブ宣伝屋』『東急不動産だまし売り裁判17』『東急不動産だまし売り裁判18住まいの貧困』『東急不動産だまし売り裁判19ダンダリン』
『東急不動産だまし売り裁判訴状』『東急不動産だまし売り裁判陳述書』『東急不動産だまし売り裁判陳述書2』『東急不動産だまし売り裁判陳述書3』
『東急大井町線高架下立ち退き』『東急不動産係長脅迫電話逮捕事件』『東急コミュニティー解約記』『東急ストアTwitter炎上』『東急ホテルズ食材偽装』
『裏事件レポート』『ブラック企業・ブラック士業』『絶望者の王国』『歌手』『脱法ハーブにNO』『東京都のゼロゼロ物件』『放射脳カルトと貧困ビジネス』『貧困ビジネスと東京都』
『二子玉川ライズ反対運動1』『二子玉川ライズ反対運動2』『二子玉川ライズ反対運動3』『二子玉川ライズ反対運動4』『二子玉川ライズ反対運動5』『二子玉川ライズ住民訴訟 二子玉川ライズ反対運動6』『二子玉川ライズ反対運動7』『二子玉川ライズ反対運動8』『二子玉川ライズ反対運動9ブランズ二子玉川の複合被害』『二子玉川ライズ反対運動10』『二子玉川ライズ反対運動11外環道』『二子玉川ライズ反対運動12上告』

江東区地名

青海(あおみ)有明(ありあけ)石島(いしじま)海辺(うみべ)永代(えいたい)枝川(えだがわ)越中島(えっちゅうじま)扇橋(おうぎばし)大島(おおじま)亀戸(かめいど)北砂(きたすな)木場(きば)清澄(きよすみ)佐賀(さが)猿江(さるえ)塩浜(しおはま)潮見(しおみ)東雲(しののめ)白河(しらかわ)新大橋(しんおおはし)新木場(しんきば)新砂(しんすな)住吉(すみよし)千石(せんごく)千田(せんだ)高橋(たかばし)辰巳(たつみ)東陽(とうよう)常盤(ときわ)富岡(とみおか)豊洲(とよす)東砂(ひがしすな)平野(ひらの)深川(ふかがわ)福住(ふくずみ)冬木(ふゆき)古石場(ふるいしば)牡丹(ぼたん)南砂(みなみすな)三好(みよし)毛利(もうり)森下(もりした)門前仲町(もんぜんなかちょう)夢の島(ゆめのしま)若洲(わかす)


Yahoo! Japan