江東区議会文教委員会で保育料細分化論議

林田力

江東区議会は2015年10月7日、平成27年第3回定例会・文教委員会を開催し、「江東区立幼稚園の保育料に関する条例」改正案が審議された。ここでは応能負担に関して江東区議会議員の間で興味深い議論がされたために紹介する。

条例改正案は学務課長が説明した。子ども・子育て支援法に伴う改正である。入園料を徴収しないように改正する。議論になった点は保育料を所得階層に応じて設定したことである。

白岩忠夫委員(維新・民主・無所属クラブ)「階層の割合は分かるか」

学務課長「7月1日現在、A階層0.3%、B階層7.5%、C階層0.8%、D階層8.2%、E階層42.4%、F階層40.9%である」

白岩委員「江戸川区と差があるのではないかと区民から聞かれる。代わっているところを教えて下さい」

学務課長「江戸川区3000円、葛飾区上限9800円、足立区上限6000円、墨田区5700円。墨田区は段階的に引き上げていく予定」

白岩委員「何故、江戸川区は3000円でできるのか」

学務課長「新制度に移行した後も制度を変えていない」

赤羽目民雄委員(日本共産党江東区議団)「経過措置があるが、その後は負担が増える。学務課長の説明を聞くと保育料設定は区の判断が大きいと考える。保護者の負担を軽くするならば6500円にとどめるべきである。何故7000円にしたのか」

学務課長「保育料は行財政改革で検討課題となっていた。負担水準は変えず、500円ずつ差をつけた」

赤羽目委員「子育て世代は負担が大きい。賛成できない」

見山伸路委員(江東再生会議)「DEFは各々どれくらいの年収か」

学務課長「Dは400万円以下、Eは4000万円から700万円、Fは700万円以上」

見山委員「年収700万円以上ならば十分な所得がある。賛成である」

星野博委員(江東区議会自由民主党)「見山委員の考えに賛同する。収入の多い区民に負担してもらい、弱者の負担を軽くする。賛成する」

条例改正案は賛成多数で可決された。この問題を単純化すると保育料を一律6500円としていたところを年収400万円以下は6000円に値下げ、年収700万円以上は7000円に値上げすることの是非である。年収700万円以上の保護者にとっては負担増となる。

行政サービスの対価については応益負担か応能負担かという考え方の対立がある。応益負担はサービスの受益者が受益割合に応じて負担する。応能負担は負担能力に応じて負担する。昨今は財政再建が強調され、財政負担を減らすことが重視されている。そのためにサービスの受益者に受益した分を負担してもらう応益負担が強まっている。一方で応益負担を突きつめると金を払えない人はサービスを受けられなくなってしまう。

このために応益負担と応能負担のせめぎあいの状況がある。応益負担を進める政治勢力と応能負担を進める政治勢力と色分けできる状況にあるが、江東区議会の論戦の興味深いことは表面的には逆転しているように見えることである。自民党や保守系無所属議員が所得階層の細分化に賛成し、日本共産党議員が年収700万円以上の負担増大になると反対した。

応能負担の考え方からすると、所得階層に応じて保育料を細分化することは支持できる。現実に党費を所得の百分率に応じて定める政党もある。保育料も所得階層ではなく、所得の何パーセントという形で算出する方でも良い。

また、経済感覚からすると、年収700万円以上は十分に豊かであり、その所得階層に他の階層よりも多く負担してもらうことは、それほど変な話ではない。子育て世代は負担が多いが、年収400万円の子育て世代は、もっと大変だろう。逆に「年収700万円以上の子育て世代の負担を増やすな」という主張は貧困層から見るとピント外れに映りかねない。

現実の貧困層の生活に1%の富裕層が入ってくることは少なく、貧困層にとって自分達を直接踏みつけている存在は中間層である。たとえば赤木智弘氏は貧困層の怒りが「貧困労働層を足蹴にしながら自身の生活を保持しているにもかかわらず、さも弱者のように権利や金銭を御上に要求する、多数の安定労働層」に向いていると指摘する(「けっきょく、「自己責任」ですか 続「『丸山眞男』をひっぱたきたい」「応答」を読んで」論座2007年6月号)。

真の敵はアメリカ帝国主義と日本独占資本という階級的イデオロギーや、真の敵はロスチャイルドという陰謀論でも信奉しない限り、貧困層が中間層に怒りを抱くとしても不思議ではない。貧困層から小泉郵政改革や橋下大阪維新を熱狂的に支持する人々が出た背景も、既得権益に守られた安定労働者層(公務員労働者)の没落が公正に資すると歓迎する意識があるためである。

このように考えると赤羽目委員の反対は中々厳しいものがある。実際、委員会の議論は星野委員に「収入の多い区民に負担してもらい、弱者の負担を軽くする」と普段ならば共産党が言いそうなことを言われて一本取られた形で終わっている。共産党に批判的な立場ならば「何でも反対」「兎に角反対」の政党であると感じるかもしれない。

赤羽目委員の反対を積極的に捉えるならば、応能負担は幼稚園利用者だけで見るものではないということである。子育ては社会全体で負担するものである。企業(法人)は当然のことながら子育てをすることはなく、物理的に保育サービスを受ける必要がないが、社会の一員として応分の負担をすべきである。

このように考えれば保護者の払う保育料は所得に関わらず安く抑え、税金の負担割合を増やすことが応能負担に資する。究極には全て税金で負担し、保護者の払う保育料を等しく0円とすることが応能負担になる。これは義務教育では憲法上の要請にもなっている。

これは福祉を貧困層など特定の人だけでなく、全ての国民のためのサービスと捉える普遍的福祉の考え方とも重なる(宇都宮健児『希望社会の実現』共栄書房、2014年、47頁)。このような未来図を確固として有している立場からすれば条例改正案への反対は自明なことなのだろう。

林田力

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