Last Update: 2012/05/13

林田力

コラム

書評

IT


コラム


牛丼業界で吉野家が一人負け


牛丼業界で吉野家は一人負けとされるほど業績が落ち込んだ。吉野家ホールディングスが2012年5月7日に発表した牛丼チェーン「吉野家」の4月の売上高は、既存店ベースで前年同月比8・3%減とマイナスになった。競合のすき家を展開するゼンショー、松屋を展開する松屋フーズが業績を伸ばすこととは対照的である。かつては吉野家の牛丼並が280円、松屋の牛飯並が290円で吉野家の方が安かった。両方とも、お茶は付くが、松屋には味噌汁も付く。また、メニューも松屋の方が豊富である。

このため、吉野家のセールスポイントは安さであったが、他の2社は2009年末以降に牛丼の値引き競争を開始した。この競争に加わらなかった吉野家は客を奪われ、既存店売上高は連続して2桁で減少した。また、狂牛病がクローズアップされる中で米国産牛肉を使用し続ける姿勢も、安全安心という点で競合に差を付けられた。

吉野家と松屋は客層も異なる。吉野家の客層は中高年従業員がほとんどである。店内がくたびれたコートの中高年ばかりだと、その一員になりたくないという思いが働き、入り辛さがある。実際、「女性は一人では入り辛い」との声がある。また、「カウンターだと子連れは無理」と指摘される。

これに比べると松屋は若い女性も含む客層が広い。メニューの豊富さも客層の広さを反映している。逆に松屋は中高年ブルーワーカー、ドライバー層の知名度は吉野家ほど高くなかったが、値下げ競争で知名度を獲得した。

店舗のシステムも相違する。松屋は食券制であり、店員が紙幣や硬貨に触らないため清潔である。吉野家では複数の店員がいる場合、会計と調理者を別にすることが多いが、それが常態ではない。先に会計を済ませた方が食べ終わって店を出たい時に出られるのでいい。吉野家で混んでいる場合は待たされることがある。店にとっても先に金を貰っておけば食い逃げの心配はないから好都合である。

但し、食券制にもデメリットがある。券売機が店の外に1台ある店舗では、複数人が店に入る場合に券売機の前で並ばなければならない。ファーストフードのために、寒い夜に店の外で並ばされることはたまらない。

吉野家が頑固に前払い食券制を採らない理由は追加注文を期待してのことだろう。前払い食券制では追加注文が期待しにくい。松屋でも追加注文も受けているが、もう料金を払っているため、あまり追加注文する気にならない。吉野家ではサラダ等がカウンターに設置してあり、客が手軽にとることができる。サラダの入っているケースのガラスが曇りがちであまり清潔そうに見えないため、敬遠する人がいる一方で、サラダを食べる客がいることも否定できない。吉野家が食券制を採らないのは、客層が比較的清潔さにうるさくない層であることを踏まえれば、合理的である。

企業には、それぞれに特色があり、必ずしも同じ土俵で戦っておらず、そのようにすることは得策とも限らない。それぞれの個性を発展させていくべきだろう。


書評


『坂の上の坂』価値多元主義


藤原和博『坂の上の坂 55歳までにやっておきたい55のこと』(ポプラ社)は50代からの30−40年間を過ごす心構えを説いた書籍である。著者は民間人初の公立中学校長として知られる。

『坂の上の坂』は司馬遼太郎『坂の上の雲』に因む。『坂の上の雲』の舞台となった明治維新直後の日本は、平均寿命が今の約半分であった。これに対して現代は一仕事終えた後にも老後と呼ぶには長い時間が待っている。それを坂の上には坂が待っていると表現する。

副題は『55歳までにやっておきたい55のこと』であるが、それほど奇抜な内容ではない。世の中は一つの考えが唯一絶対という単純な構図ではないという思想がベースにある。唯一絶対の正解の押しつけを否定することから出発する。

これは価値多元主義の思想であるが、至極当たり前のことである。少なくともポストモダニズム以降の大学教育を受けた人々には自明のことである(林田力「大卒から感じた高卒のギャップ」PJニュース2010年11月23日)。

このような自明なことを強調しなければならず、そのような書籍が評価されている状況に戦後日本の歪みがある。焼け野原から経済大国にするような一つの方向に進むことしかできない貧困な状況でも成功と自惚れることができた、おめでたい時代であった。(林田力)


『ミラーズ・リポート』連邦の非人間性


『機動戦士ガンダム 第08MS小隊 ミラーズ・リポート』はOVA『第08MS小隊』のダイジェスト版的な劇場版である。『第08MS小隊』は一年戦争を舞台に、シロー・アマダを隊長とするモビルスーツ部隊第08MS小隊の活躍を描く。軍人のシローが敵軍ジオン兵のアイナ・サハリンと交流する中で、人命の尊さや戦争の虚しさに目覚めていく。

『ミラーズ・リポート』は情報部のアリス・ミラー少佐によるシロー・アマダの調査という形式を採用する。それによってシローの人を殺したくないという思想がクローズアップされる。また、情報部の査問という形式により、連邦という硬直化した組織の非人間性も強調される。

ガンダムは戦争の物語であるが、悪の敵勢力を滅ぼして万々歳という単純な作品ではない。主人公には反戦思想的なものさえ存在する。戦乱の時代を描くNHK大河ドラマでも主人公は平和主義者に描かれることが少なくない(林田力「『江〜姫たちの戦国〜』第15回、戦が嫌いな戦国時代劇」リアルライブ2011年4月25日)。平和憲法を抱く日本の平和主義はエンタメにも根を下ろしている。


『茶人と名器』茶人と茶道具を紹介


筒井紘一『茶人と名器(茶の湯案内シリーズ)』(主婦の友社、1989年)は高名な茶人と名器と呼ばれる茶道具を紹介した書籍である。取り上げる人物は村田珠光から近代の益田鈍翁(益田孝)に至るまで幅広い。

名器の作者にも触れている。たとえば宮崎寒雉は金沢で活躍する一流の釜師であり鑑定家でもある。宮崎寒雉は、加賀藩主前田家の御用釜師として代々寒雉を名乗り当代に至る。加賀藩の鋳物師であったが、前田家に出仕していた裏千家四代家元の仙叟宗室に注目され、特色ある釜を作るようになった(167頁)。

千利休の茶道の流派は表千家・裏千家・武者小路千家に分かれる。表千家三代・元伯宗旦の三男・江岑宗左が不審菴表千家となり、宗旦の隠居所を四男・仙叟宗室が継ぎ今日庵裏千家となり、さらに次男・一翁宗守が官休庵武者小路千家を称する。

この三千家の分立によって千家茶道は安定的な発展を遂げることになる。宗旦の代では乞食宗旦と言われながらも武家に出仕しなかった。権力者の気まぐれで滅ぼされた千利休の轍を踏まないためである。三千家に分かれた宗旦の子どもの代になると宗左が紀州徳川家に出仕したように大名家の茶道となっていった。

日本では「たわけ」の由来を「田分け」とするように分裂を弱体化とみる幼稚な見解もあるが、三千家の分立が発展の要因である。このお陰で明治維新の文明開化の荒波にも生き残ることができた。一家のみで統一を保っていたならば家元の権威は競争相手がいないために高くなるが、硬直化して廃れたかもしれない。どこかで途絶えた可能性もある。

「たわけは田分け」自体も迷言である。鎌倉時代の所領(田畑)の分割相続を「たわけ」として止めた結果が南北朝の騒乱であった。南北朝の騒乱が長引いた原因は皇国史観に見られるような天皇家への忠誠心では決してない。分割相続から排除された側が別の天皇を錦の御旗として利用したためである。「田分け」をしなければ相続紛争が激化するだけである。(林田力)


IT


Apple(アップル)に人権軽視批判


Apple(アップル)は労働者の人権を軽視して巨額の利益を上げていると報道された(CHARLES DUHIGG and DAVID BARBOZA, Apple's iPad and the Human Costs for Workers in China, New York Times, January 25, 2012.)。宣伝広告で作られた企業イメージと実体の乖離を浮き彫りにしたNew York Times記事は大きな反響を呼んでいる。

中国にあるApple製品の工場の労働環境は劣悪で、事故が絶えない。長時間の残業は当たり前で、週7日労働もある。未成年の労働者も確認された。作業員の健康・安全には無配慮である。ある工場ではiPhoneのスクリーンを洗浄するために有毒な化学物質を使うように作業員が命じられ、137名が健康被害に遭った。その有害物質は作業効率を高めるために使用されており、安全よりも利益という企業体質を物語る。。

iPadの工場ではアルミニウムの粉塵による爆発事故が複数件発生し、死傷者を出した。成都の工場では4名が死亡し、77名が負傷した。その後にも上海のiPad工場で同じ原因の爆破事故が発生しており、教訓を活かせていない。爆発事故はiPadのケースを研磨する作業で発生した。工場は換気が悪く、アルミの削り屑が工場内に広がり、火花で着火で爆発した。

中国でiPadやiPhoneなどのApple社製品を受託生産するFoxconn(フォックスコン)は広東省深セン市にある工場で10人以上の従業員が相次いで飛び降り自殺を図る「連続自殺騒動」が起こり、過酷な労務環境が報道された。New York Times紙の記事ではAppleがFoxconnを支え、成長させた原動力とした上で、Appleの行動は是認できないものと指摘する。

Appleの問題として元アップル役員はApple独特の秘密主義を説明する。サプライヤーはAppleとの契約について一切他言してはならないとされる。この閉鎖性によって労働環境の改善が進まないと批判されている。多数の権利擁護団体やメディアの要求によって、Appleは初めて156のサプライヤーのリストを公開したが、孫請け会社については、依然として情報は不明なままである(佐藤ゆき「過酷な労働環境でアップル製品はつくられている / 長時間労働、絶えない爆発事故、週7日労働も」ロケットニュース24 2012年1月31日)。

独立系労働監視団体である公正労働協会はアップルの製品は労働者の犠牲の下に生産されていると指摘する。安賃金で劣悪な労働環境で働く犠牲の上にAppleは成り立っていることになる。この問題は日本でも報道され、「Appleは世界最大最悪のブラック企業」との声も出た。

国際情勢解説者の田中宇氏は別の面からAppleの体質を指摘する。ガーディアン紙の記事を引用して、iPhoneによるプライバシー侵害の危険性も指摘する。iPhone利用者はブラウザで何を見たか、どのようなアプリをダウンロードしてどのように使用しているか、外出時にどこに行ったかなどの情報が随時Appleに送信される。情報を送信させない設定もあるが、その設定でAppleが情報を採取していないと確信できる根拠はない(iPhones and Android phones building vast databases for Google and Apple, guardian, 22 April 2011.)。

しかも収集した情報を米国の諜報活動に利用させている可能性を推測する。「スティーブ・ジョブズが死んだ後、世界的な英雄に祭り上げられたプロパガンダ的な急上昇を見ると、アップルも諜報機関に入り込ませてあげる見返りとして、企業イメージと株価の向上を得ることにしたのかもしれないと感じる。」(田中宇「米ネット著作権法の阻止とメディアの主役交代」2012年1月25日)

故スティーブ・ジョブズ氏に関する米連邦捜査局(FBI)の調査報告書が、情報公開法の請求に基づいて公開された。ジョブズ氏のマイナス評価も多く、神格化されつつあるジョブズ氏の実態を知る上で有益な資料である。ジョブズ氏がLSDなど薬物の利用者であったことも証言された。これはジョブズ氏自身も認めていた内容で新味はないが、改めて裏付けられた形である。

以下は資料に記載されたジョブズ氏の評価である。ジョブズ氏は現実歪曲フィールドを作り出せる人間で、信頼できない。正直ではない。ジョブズ氏は目的を達成するために現実や真実を曲げる傾向がある。高慢で人を見下すところがある(「『ジョブズ氏は信頼できない』FBI、身元調査報告書を公開」WIRED 2012.2.10)。

アップル製品には消費者から不満の声もある。iPhone 4では電波感度の低下が話題になった。「iPhone」のロック解除に使われる4桁のパスコードは僅か数分で解読可能であるとスウェーデンのセキュリティ企業Micro Systemationは報告する。

見た目の形状がiPad2とほとんど変わらない新型iPadに対しては「新味に乏しい」「革新的ではない」といった、失望の声が上がる。割高なiPad2を選ばない消費者も増えている(「独走アップルの死角」日経ビジネス 2012年3月19日号10頁)。『iOS』は画面が固まってしまう、レスポンスが遅いという不満も抱えている(「『iOS 5.1』の残念なところ10件」WIRED.jp)。また、アップルは電子書籍の価格を共謀してつり上げていた疑いがあるとして米司法省が提訴の意向を示している(「アップルなどが電子書籍価格つり上げか、米当局が提訴へ」ロイター2012年3月8日)。

Appleは消費者向けビジネスで成立している企業である。「他の大企業とは違い、Appleに対してわれわれ消費者は絶大な影響力を持っている」(「汚れた金か?―ニューヨーク・タイムズのApple記事を考える」TechCrunch Japan 2012年1月27日)。Apple製品を購入するか否かは消費者の意識が問われる問題である。


スマホは従来型の携帯電話よりも満足度が低い


スマートフォン(スマホ)の満足度は従来型の携帯電話よりも低い。新しいものや高機能が良いとは限らず、流行に踊らされないことが重要である。

携帯電話端末の顧客満足度調査はJ.D.パワー アジア・パシフィック(東京都港区)が2012年2月21日に発表した。調査は2012年12月時点のものである。性能、操作性、スタイル・外観、機能の4項目で顧客満足指標を設定し、全国の6000人を対象に実施した。

基本的な通話機能の使いやすさやボタンの押しやすさといった点で従来型の携帯電話の評価が高かった。携帯電話本来の機能である電話という点でスマホは使いにくい。メールを打つ場合も従来型の携帯電話の方が速くできる。また、スマホはバッテリー性能の評価が低かった。電池の切れた携帯電話ほど無駄なものはない。バッテリーの消耗が速いということはエコにも反する。

スマホはウィルス感染という危険も伴う。スマホをターゲットにしたウィルスやマルウエアが急増している。新種の大半がスマホ向との報告もある。ユーザー情報を不正に収集する「トロイの木馬」型が目立ち、短期間で機能が急速に進化している。ウィルス感染はアプリ配布でも注意する必要がある。公式マーケットも安全とは限らない。


グリーGREEを摘発か


ソーシャル・ゲームのグリーGREEに摘発の可能性が報道された。ある政府関係者によればグリーの摘発に向けた検討が始まった模様で、「4-5月が山場だ」という(「当局がグリーに重大な関心 正念場迎えるソーシャルゲーム」ダイヤモンド・オンライン2012年3月26日)。大和証券キャピタル・マーケッツは「行政指導がなされるリスク度合いが増している」などとしてグリーの投資判断を1から3へと2段階引き下げた。消費者庁がGREEの提供する「コンプリートガチャ(コンプガチャ)」に対し、景品表示法に抵触する可能性があるとして、業界への周知を検討していることも報じられた。

モバゲーがソーシャルゲームのビジネスモデルを批判されながらもプロ野球球団のオーナーとなった一方で、GREEには当局が摘発すると報道されるなど明暗が分かれた。まるでプロ野球に名乗りを上げたライブドアと楽天を髣髴させるような明暗である。そこにはユーザーを無視するGREEの体質が見え隠れする。

GREEでは運営に批判的なユーザーのコメントを削除し、退会処分を連発した。それに古参ユーザーは一層猛反発するという悪循環に陥る。「良識的なユーザー」「初期の頃から支えてくれたユーザー」などのユーザーが離れてしまった(「グリーは一体どこから道を間違え始めたのかという知られざる歴史まとめ」GIGAZINE 2012年3月26日)。

ソーシャル・ゲームの詐欺性が問題になっている。ソーシャルゲームは不透明でレアなアイテムによって射幸心を煽り、消費者から搾取すると批判されている。SNSではお馴染みとなったゲーム招待状。そのカラクリを紹介する。

ゲームのプレーヤーがSNS上の友達に招待状を送る理由は様々である。最初に思いつく理由は、純粋に素晴らしいゲームだから他人に勧めるケースである。しかし、これは実際に送られる招待状のうちの僅かである。

次にソーシャルゲームで一緒にプレイする仲間になって欲しい場合である。たとえば以下のような招待状がある。

「チームの皆で闘うと燃えるゲームだから、あなたと一緒のチームでプレイできたらうれしい」

「まだ始めたばかりで仲間がいなくて寂しい」

これも純粋に一緒にプレイしたいという理由からならば、気心の知れた仲間内での招待となり、実際に送られる招待状のうちの少数である。

最も多い理由は招待状を送ることでプレーヤーに何らかのメリットが生じるケースである。多くのゲームでは招待状の送付や招待された友達のゲーム登録によって、ポイントの加算や希少アイテムの取得などの特典を付している。これによってゲーム運営企業は広告宣伝によらずにプレーヤーを増加できる仕組みである。

招待状の送付に特典を付す場合、招待状が乱発される傾向にある。最初から招待目的でSNS上の友達を募集するプレーヤーも存在するほどである。ゲーム運営企業にとってゲームの知名度を上げたい場合には有効であるが、プレーヤー増加の費用対効果は薄い。中には「招待メールを送るだけでコインがもらえる」として、「スルーでお願いしますm(_ _)m」「登録も全く必要ないです」「完全無視でお願いします」「ご迷惑掛けて本当にごめん」と記載する招待状もある。

この種の招待状が大量に送付されてもゲーム運営企業のメリットにならない。そのため、招待状を受けた友達の加入で特典を付与するようにする。このようにした方がプレーヤーも受け取った友達が登録したくなるような招待状を書くことになる。

多くの招待状では「面白いゲームがあるんだけど…」「楽しめるゲームを見つけたんだけど…」と優れたゲームであることをアピールする。ゲームが面白いことは当然であるが、遊び方が単純で手軽に楽しめることがアピールポイントである。

ファミコンの時代と比べるとテレビゲームの世界は大きく進歩したが、逆に精緻になり過ぎてゲームの世界に習熟するハードルが高くなり、気楽に遊べなくなった面もある。SNSのゲームの隆盛には、その間隙を突いた面がある。それ故に招待状も「サクサク進めるから時間がなくても面白いよ」となる。

招待特典目当てに招待状が送付されることは多くのSNSユーザーも認識していることである。それ故に招待状では「どうしても欲しいキャラが、招待受けてくれると加入できるんだよ。だめかな」「僕を助けると思ってお願いします」と正直に招待特典目当てであると記載されることが多い。

また、招待特典は招待者だけでなく、招待を受けて登録した友達にも付与されるケースがある。そのために招待状には「このメールから登録すると、2000コイン相当のアイテムがもらえます。やってみて」と招待を受けた側のメリットも記されることもある。

中には以下のようにゲーム登録だけ(プレイしなくてもいい)を依頼する招待状もある。

「招待アイテムももらえるので、登録してもらえるだけでも助かります」

「ゲームはして頂かなくてけっこうですので、どうか『ゲーム開始』をワンクリックだけご協力お願いいたします」

さらに「登録してくれたら、もちろん自身の未登録ゲームなら協力させていただきます」と相互に登録しあう提案もなされている。

ゲーム運営企業にとってプレーヤー数の増加は直近の目標であるが、基本プレイ無料・アイテム課金のゲームでは非アクティブなプレーヤーを大量に抱えてもデータ領域を圧迫するだけである。そこで招待特典のハードルを上げるゲームもある。友達が登録した上で一定のレベルやステージに到達することで特典が付与される仕組みになる。

この場合は、以下のような招待状になる。

「チュートリアル終了までよろしくお願いします」

「今ならレベルアップしてくれるだけでアイテムが貰えるみたいだから、ちょっと頑張ってレベル10まであげて欲しいかも」

「特典が欲しいので、マリオネット作成までやってくれると助かります」(林田力)


オンラインゲームを支えるグリッドとクラウド


オンラインゲーム運営企業が直面する課題は高トラフィックの処理である。多数のプレーヤーの集まる人気ゲームはアクセスが集中し、レスポンスが悪化する。一般にゲームはウェブサイト以上に速いレスポンスが求められる。ウェブサイトの画面表示では数秒を待つことは許容できても、ゲームで数秒待たされることは厳しい。特にアクション系のゲームのレスポンスの遅れは致命的である。

しかし、一時的な人気のために高性能のマシンを用意するならば収益面で破綻する。特にゲームは土日などピーク時と、そうでない時の差が激しい。ピーク時に対応した高スペックなマシンは用意することは非効率である。

この課題は有料会員制からアイテム課金制という近時の傾向によって重要性が増している。オンラインゲームの世界は有料の会員だけ利用できる仕組みから、プレイは無料として、プレーヤーの参入ハードルを下げ、アイテムで課金することで収益を上げるビジネスモデルに変化している。この結果、大量の無料プレーヤーを抱えることになり、これまで以上の処理能力が求められる。

一方でアイテム課金制は平均客単価や立ち上げ時の収入を低下させ、収益面で苦しくなり、より効率的なマシン投資が必要になる。そこで立ち上げ時のコストを抑制し、利用状況に応じてフレキシブルに設備を拡大・縮小できるシステムが理想的である。

そこで期待された技術がグリッド・コンピューティングである。これはネットワークに接続した複数のコンピュータを一台のコンピュータのように利用する技術である。ネットワークを通じて遊んでいるコンピュータの計算能力を有効利用する仕組みである。タンパク質を解析して新薬開発に貢献するプロジェクトや、宇宙からの電波信号を解析して地球外知的生命体を探索するプロジェクトは広く一般の人々のパソコンも参加した。

これをゲームにも応用する。ゲーム運営企業内の複数マシンをグリッド化し、ゲームの売れ行きに従ってグリッド・サーバを増減させる。人気マシンには多くのリソースを割り当て、人気が衰退すればリソースを減少させる。利用されなくなったマシンは新規ゲームで利用する。

早くも2003年には米国Butterfly.net社とIBM社がオンラインゲーム用グリッド・コンピューティング環境「Butterfly Grid」をプレイステーション2用ゲーム開発者向けに提供した。これはマシンの性能を監視し、特定のゲームにアクセスが集中した場合は、余裕のあるマシンを自動的に割り当てる機能を実装している。

このグリッド・コンピューティングは革新的な技術であるが、オンラインゲームでは社内にプールしたマシンに限定される。新薬発見や宇宙人探索とは異なり、商用ゲームのために自己のパソコンの余剰能力を提供することは考えられない。また、オンラインゲームでは不正アクセスや不正操作(チート)などの問題も起こり得る。社外のマシンを使った分散処理にはセキュリティ上の危険がある。

そこでクラウド・コンピューティングの登場である。これはシステムの利用企業がシステム構成を意識することなく、ネットワーク上に存在するプロバイダのサービスとして利用できる仕組みである。必要なリソース分を契約できるクラウドは、スモール・スタートで立ち上げ、突発的なプレーヤー増大の可能性のあるゲームに向いている。

一方でクラウドにも注意点がある。クラウドでは実際のマシンはインターネットの雲(クラウド)の中に隠れ、利用者が実際のマシンを意識せずに利用できる点がメリットである。しかし、マシンがゲームのプレーヤーの住む場所の近くにある場合と、地球の裏側にある場合では回線を通したレスポンスに差が生じる。雲の中にあるマシンを意識しないで済む点がクラウドの意義であるが、ある程度は意識する必要がある。

クラウドではサービス品質(マシン停止など)やセキュリティが問題になるが、ゲームでの見方は分かれている。現実にプレイステーションネットワークの個人情報流出事件は大問題になっており、品質やセキュリティを重視する見解が一般的である。

一方で顧客情報は除いて、ゲームは社会インフラを支えるシステムよりは重要度が低く、低価格かつベストエフォート的なサービスで良いとする見解もある。ゲームにアクセスできないなどの問題が起きても基本的にはアイテムで補償するため、運営企業の懐は他の業態に比べれば痛みにくいという計算もある。


オンラインゲームを支えるデータ管理


コンピュータ・ネットワークの普及・発展と軌を一にして広まったオンラインゲームであるが、その独自性からゲーム運営企業には他のシステムと異なる工夫が求められる。ここではゲーム特有のデータ管理手法を紹介する。

オンラインゲームの課題は大量アクセスの迅速な処理であるが、同じく大量アクセスを処理しなければならないポータルサイトと比べると大きな相違がある。それはゲームではメモリ上の処理の割合が高いことである。

ウェブサイトでは別のページにアクセスする度にウェブページの読み込み処理が発生する。これに対してゲームでは開始時にプレーヤーのデータをデータベースからロードし、そのデータをゲーム中は使い回す形が一般的である。但し、最近主流のソーシャルゲームではプレーヤーの関係が重要になり、他のプレーヤーのデータを読み込む場合も多くなる。仲間になる、相手にプレゼントを贈る、相手の農園に虫を入れるなどである。

プレーヤーはゲーム中にアイテム購入やレベルアップなどで状態が更新される。この場合もデータは更新された形でメモリに持ち続けている。更新されたデータは最終的にはデータベースに保存されるが、更新時にデータをデータベースに逐一保存するか、まとめてゲーム終了時に保存するかは作り方である。メモリ上の情報は障害時には消えてしまうために更新の度に小まめに保存する仕組みの方が安全である。

それ故にゲームではデータの書き込み処理は一定程度発生するが、留意点はメモリ上の処理に比べてデータベースへの入出力処理は圧倒的に遅いことである。データを保存してからゲームを進める仕組みにしたならば、保存処理がボトルネックになり、プレーヤーを満足させるレスポンスが得られなくなる。この対策として書き込み処理を非同期にして、書き込みの結果を待たずにゲームを進める実装にする例がある。

また、書き込み処理を速くするようにデータの持ち方も工夫する。データベースの性能が低い時代は、そもそもデータベースを利用せずにバイナリファイルに保存するケースがあった。また、データベースを使用する場合でもバイナリデータとして、BLOB (Binary Large Object)項目に格納することもあった。その後はデータベースの性能向上に伴い、通常のデータベースの使われ方も増えてきた。

今後はKVSやオンメモリ・データベースの利用が注目される。KVS (Key-Value Store)はデータとデータを識別するキーをペアにして保管するデータ管理システムである。伝統的なデータベースに比べるとシンプルであるが、プレーヤーのデータはプレーヤーに紐付けられて使用するものと決まっているゲームと親和性がある。

オンメモリ・データベース(インメモリ・データベース)はデータを半導体メモリに保存することで、処理速度を飛躍的に向上するデータベースである。オンメモリ・データベースでは、データをハードディスクドライブに保存する従来型データベースで発生していたディスク入出力が不要になる。

オンメモリ・データベースはパフォーマンス面では従来型データベースを圧倒するが、データの永続性の点で従来型データベースを代替するには至っていない。それでもメモリ処理の割合が高いオンラインゲームには適している。