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二子玉川で進む街壊し

初出:林田力「二子玉川で進む街壊し」マスコミ市民2009年11月号46頁

ニコタマの愛称で知られる東京都世田谷区の二子玉川で街壊しが進んでいる。多摩川に沿った地域で豊かな自然を残し、戦前から風致地区に指定されてきた。この二子玉川で二子玉川東地区第一種市街地再開発事業(二子玉川ライズ)が進行中である。分譲マンション(二子玉川ライズ タワー&レジデンス)やオフィスビル、ホテル、商業施設などの超高層ビルを建設する計画で、公共性がなく、住環境を破壊するとして地域住民を中心として反対運動が起き、2件の訴訟も係属中である。

既に建設中の高層ビルによって日照・眺望の妨げ、風害(ビル風)、電波障害などの被害が顕在化した。以前から住民が親しんで来た多摩川からの風も届かなくなった。

この再開発の異様さは再開発地域を人工地盤で約7メートルもかさ上げすることにある。再開発地域に接する周辺住民にとっては目の前に巨大な壁ができることになり、圧迫感を受けることになる。これによって再開発地域と周辺地域はパレスチナの分離壁のように心理的にも物理的にも分断されてしまう。

この人工地盤には周辺住民を犠牲にして再開発地域のみ洪水被害を免れようとする浅ましい発想が透けて見える。再開発地域の北側を流れる丸子川は過去に何度も氾濫を繰り返している。

このような環境において再開発で人工地盤が造られると水が流れずに滞留し、再開発地域周辺の住宅地の洪水被害を激化させることは明白である。これに対して再開発組合側は訴訟で「人工地盤の下は駐車場などの空間であり、洪水時には水没するため、人工地盤が水害を拡大させるおそれはない」と反論した。

これが事実ならば駐車場が貯留槽となってしまい、マンション居住者にとって問題である。ここには売ったら売りっぱなしのマンションデベロッパーの体質がある(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』参照)。既存住民も新たに流入する住民も幸せにしない再開発は工事を中止し、計画を見直すべきである。


二子玉川ライズは街壊し

ニコタマの愛称で知られる二子玉川で街壊しが進んでいる。二子玉川は東京都世田谷区にある東急田園都市線・大井町線二子玉川駅周辺の地域である。多摩川に沿った地域で豊かな自然を残し、戦前から風致地区に指定されてきた。駅周辺には数は少ないが昔ながらの商店があり、銭湯もあった。

この二子玉川で二子玉川東地区第一種市街地再開発事業(二子玉川ライズ)が進行中である。東京都世田谷区玉川の約11.2haの土地に超高層ビルを建設し、道路を拡幅する。民間施行の再開発事業としては全国最大規模になる。この再開発事業に対して地域住民を中心として反対運動が起きている。

反対運動は2件の裁判によって司法の場でも争われている。第1に二子玉川東地区市街地再開発組合(川邉義高・理事長)に対して再開発事業の差し止めを求めた民事訴訟である(平成17年(ワ)第21428号)。第2に世田谷区に対する再開発事業への公金支出の差し止めを求めた住民訴訟である(平成19年(行ウ)第160号)。

このうち、民事訴訟については一審で請求棄却となったが、住民の控訴により東京高裁で係属中である(平成20年(ネ)第3210号)。東京地裁平成20年5月12日判決は再開発による圧迫感や景観破壊が権利侵害となることを認めながらも、再開発事業の公共性を理由に権利侵害は受忍限度を超えないとした。住民側は控訴審では都市工学や社会学などの知見を活用して、分譲マンションやホテルを建設する再開発計画に公共性がないことを主張する。

本稿では再開発の問題点として大きく3点指摘する。第1に住環境の破壊であり、第2に公共性の欠如であり、第3に住民軽視である。

住環境の破壊

再開発の第1の問題は住環境の破壊である。再開発では地上42階(約150m)及び28階(約100m)を擁するタワーマンション「二子玉川ライズ タワー&レジデンス」をはじめとする超高層ビル群が建設される。これら超高層ビル群によって周辺住民は景観の破壊、日照の阻害、ビル風、電波障害、交通量増加による大気汚染など複合的な被害を受けることになる。

既に「二子玉川ライズ タワー&レジデンス」は建設中であり、日照・眺望の妨げ、風害(ビル風)、電波障害などの被害が顕在化した。以前から住民が親しんで来た多摩川からの風も届かなくなってきている。加えてビルの反射光により、変なところから変な時間帯に光が照射されるという想定外の被害も明らかになった。

加えて大規模住宅開発による急激な人口増加が交通量の増加を引き起こし、大気汚染の深刻化が懸念される。また、既に飽和状態の東急田園都市線のラッシュが一層殺人的になる。二子玉川からの転居を真剣に考えているという住民の声も報道された(土屋亮「崩れ落ちるブランド住宅地 首都圏沿線別下落率で東急苦戦」アエラ2008年12月1日増大号14頁)。

住宅地を紹介した書籍でも二子玉川を以下のように紹介する。「再開発が進むことでより話題性の高い街となるだろうが、満員電車での通勤に耐えられるだろうか。」(小原隆『東京のどこに住むのが幸せか』講談社、2007年、201頁)

二子玉川東地区再開発の異様さは再開発地域を人工地盤で約7メートルもかさ上げすることにある。再開発地域に接する周辺住民にとっては目の前に約7メートルの壁ができることになり、甚大な圧迫感を受けることになる。これによって再開発地域と周辺地域はパレスチナの分離壁のように心理的にも物理的にも分断されたものとなる。これは再開発が地域コミュニティの発展を目指すものではなく、地域コミュニティを破壊するものであることを雄弁に物語る。

この人工地盤には周辺住民を犠牲にして再開発地域のみ洪水被害を免れようとする浅ましい発想が透けて見える。再開発地域の北側を流れる丸子川は過去に何度も氾濫を繰り返している。東海豪雨(2000年9月)並みの豪雨(時間最大雨量114ミリ)の場合は、2メートル以上の浸水も予想される(世田谷区洪水ハザードマップ)。世田谷区では約700世帯1700人が、この2メートル以上の浸水範囲に居住していると推計する(世田谷区議会定例会2008年6月13日における村田義則議員の一般質問への答弁)。

このような環境において再開発で人工地盤が造られると水が流れずに滞留し、再開発地域周辺の住宅地の洪水被害を激化させることは明白である。この点で再開発は周辺住民の生命や健康、財産を侵害しうるものである。
この問題について再開発事業のコーディネーターである宮原義明(株式会社アール・アイ・エー)は再開発事業差止訴訟の証人尋問(2007年11月10日)で以下のように証言した。

「もともと、そこに流れ込んでいたということ自身が、それぞれの敷地としては、当然敷地の中で単独で整備することだと思いますから、それを前提としてのお話は少しおかしなことと思いますね」(林田力「住民無視が見えた「二子玉川東地区再開発・差止訴訟」被告側証人尋問(2)」JANJAN 2008年1月17日)。

再開発事業では周辺環境の洪水被害について配慮しておらず、再開発によって地域住民が洪水被害で苦しむことになっても構わない、という論理である。

この洪水被害は地域住民にとって看過できない被害であり、因果関係も説明を聞けば納得できる。しかし、差止訴訟一審では資料が十分ではなく、住民側は踏み込めなかった。控訴審では超高層ビルと集中豪雨やヒートアイランド現象の関係などの研究成果を交えて水害の危険を主張している。

東急グループの営利事業

再開発の第2の問題は私企業である東急グループの営利目的の事業であり、事業に公共性がないことである。予定されている建物はマンション、商業施設、オフィス、ホテルであり、私企業が自らのリスクと負担で行うべきものである。また、大規模開発は環境保全・二酸化炭素削減の動きにも逆行する。

二子玉川ライズが営利中心の再開発であり、二子玉川の魅力を喪失させるものであることはマスメディアでも認識されている。

「日本初のショッピングセンターが発散するおしゃれな雰囲気と、昔ながらのひなびた風情。東京都世田谷区の二子玉川駅周辺、通称ニコタマの魅力は、外来者と地元住民が織り成す『モザイク』にある。都心から離れた多摩川べりの人気エリアが1,000億円を投じる巨大開発の波に洗われるとき、何が失われ、何が残るのだろうか」

玉川高島屋SCのリニューアルにかかわった建築家の彦坂裕氏は以下のように語る。「ここは都心から離れた、いわば『離宮』。一般的な経済原理ではなく、時間軸が違う何かが求められる。山手線の駅前のような、ごく普通の開発になってしまえば、ニコタマのクォリティーは保てない」(「二子玉川−「離宮」に寄せる波」日経マガジン2009年4月19日)。

「街に暮らすなかで、地元に高層化の動きがもち上がれば、どこでも似たような再開発の街になるのを食い止めていく方が、長期的には街の資産価値を上げる」(織山和久『東京いい街、いい家に住もう』NTT出版、2009年、146頁)

二子玉川東地区再開発の本質が東急の利益追求であることは再開発事業予定地の85%以上が東急電鉄、東急不動産ら東急グループの所有地であることが示している。このため、再開発組合といっても圧倒的な大土地所有者である東急グループの意を体現したものに過ぎない。本来、再開発は「当該区域内の土地の利用が細分されていること等により、当該区域内の土地の利用状況が著しく不健全である」地域を対象とする(都市再開発法第3条)。この都市再開発法の趣旨に二子玉川東地区再開発が合致するかは大いに疑問である。

この公共性に欠ける東急の利益中心の開発関連事業に約10年間で700億円もの税金が投入される予定である。一方で世田谷区では保育園、幼稚園の保育料値上げ、各種施設使用料値上げなど、区民の負担増加が見込まれている。ここにおいて再開発反対運動は周辺住民のみならず、全ての納税者が関心を持たなければならない問題となる。
しかも納税者にとって恐ろしいことは税金の負担が増加する可能性があることである。

100年に一度の大不況とも称される経済情勢下でバブル的な発想の高層マンションや営利施設が成功する可能性は低い。高層建築ブームはマンションやオフィスの供給過剰をもたらすだけである。人口減少で将来的にはマンションもオフィスも余ることは確実である。建設会社は建設すれば儲かるが、再開発事業が行き詰ったら税金で穴埋めさせられる危険が高い。このため、反対運動とは別個に、具体化していないII−a街区について住民主導でまちづくりを提言する動きも活発である(「二子玉川東地区住民まちづくり協議会」など)。

住民軽視

再開発の第3の問題は地権者や住民に十分な説明もなく、東急グループ中心に進められていることである。たとえばI−b街区の商業棟は元々8階建てと説明されていた。それがいつの間にか16階建てとなり、階数が倍増してしまった。このような不誠実な説明が横行している状況に住民の不信感は高まっている。

この不誠実さは東急の体質的なものである。筆者は東急不動産(販売代理:東急リバブル)から東京都江東区の新築マンションを購入したが、不利益事実(隣地建て替えなど)を隠してだまし売りしたものであり、裁判で売買代金を取り戻した(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社、2009年)。また、東急電鉄については秘密主義と住民への不誠実な対応が住民反対運動を噴出させていると分析されている(「「ブランド私鉄」東急沿線で住民反対運動が噴出するワケ」週刊東洋経済2008年6月14日号)。

広汎な反対運動にもかかわらず、現在は第1期工事が進行中である。町中至る所で工事を行っており、工事現場の中を道路が通っている感がある。二子玉川駅東口を出ると目の前が工事現場で塞がれる。工事現場を迂回しなければ目的地に着くこともできない。

再開発工事は住民の日常生活に大きな悪影響を及ぼしている。ニコタマの魅力や住民が抱く街への愛着が日々壊されている状態である。二子玉川は後世に悔いを残すバブルの遺物と成り果てる瀬戸際に立たされている。