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二子玉川東地区再開発住民提案の採算性分析

東京都世田谷区の二子玉川東第二地区市街地再開発事業に対する住民提案の事業採算性を裏付ける分析が発表された。これまで日本の行政や企業には住民からの提案を実現可能性に欠ける願望として頭ごなしに否定する傾向があった。その意味で住民提案が再開発事業として成り立つことが裏付けられたことは貴重である。

分析はNPO法人区画整理・再開発対策全国連絡会議の機関紙「区画・再開発通信」編集委員である遠藤哲人氏によりなされ、「区画・再開発通信」2010年4月号(2010年4月15日発行)に「再開発・住民提案の実現可能性を考える」と題して掲載された。

二子玉川東第二地区市街地再開発事業は二子玉川東地区再開発の第2期事業で、再開発地域の中央部分(II-a街区)に高さ約137mの超高層ビル(ペントハウスも含め32階建て)などを建設する計画である。建物にはオフィス・ホテルなどが入居する。

一方で高層ビル建設中心の二子玉川東地区再開発自体に対して、景観や住環境を破壊するとの住民の批判が強く、住民運動が起きている。住民による裁判も提訴され、世田谷区議会でも問題提起された。

再開発に住民の声を反映させることを目指す住民団体「二子玉川東地区住民まちづくり協議会」(飯泉善一郎会長)では早稲田大学卯月研究室の協力により、住民の要望を取り入れた住民提案を発表した(林田力「二子玉川東地区住民まちづくり協議会が住民提案を披露」JANJAN 2009年10月27日)。
http://www.news.janjan.jp/area/0910/0910252196/1.php

「区画・再開発通信」の記事では複数の住民提案のうち、「代替案A」を検討対象として選定した。これは高さを押さえ、2階から7階までの複数の建物を分散配置する案である。不動産価格や再開発ビル整備費用を踏まえ、地権者の利益を損なわずに「代替案A」を実現することは可能と論じる。

具体的には建物を集約し、敷地の7割を公共団体が購入して公共的な広場にする。これによって、事業採算を賄いながらも、住民の求める景観や自然環境を維持できる。広場に要する「費用はおよそ134億円(1万9600u×68万円/u)」であり、「財政規模2000億円の世田谷区としては、プライオリティーさえはっきりさせればできない相談ではない」とする。

第二地区の7割を広場にするという主張は非常に魅力的かつ現実的である。もともと再開発地域は多摩川と国分寺崖線に囲まれた水と緑の豊かな地域であり、広範囲にわたって風致地区としての制限を受けていた。しかも、都市計画決定で都市計画公園とすることが予定されていた。

ところが、1989年の都市計画変更決定で都市計画公園が二子玉川駅から離れた再開発地域の東端に移動してしまった。これが再開発地域に高層ビルを建設できるようになったカラクリであるが、移動された公園「(仮称)二子玉川公園」も住民から批判されている。新たに立ち退きしなければならない住民が出る上、盛り土をされた公園が近隣住民に圧迫感をもたらすためである。盛り土が水の流れを塞き止め、洪水被害を激化させるとも指摘されている(林田力「二子玉川再開発差し止め訴訟控訴審証人尋問(下)」PJニュース2010年4月15日)。

第二地区の多くを広場とすることで、本来の都市計画に近づけることができる。また、「(仮称)二子玉川公園」を第二地区に持ってくるならば、「(仮称)二子玉川公園」の整備費用が資金面の手当てとなる上、現在の「(仮称)二子玉川公園」に対する住民の不満も解消できる。

記事は「住民、行政、企業も立ち止まって、次世代に何を残すべきなのか、考えるべき大事なチャンスではないか。」と結ぶ。この記事が住民本位の街づくりの推進剤となることを願う。

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林田力「二子玉川再開発差し止め訴訟控訴審証人尋問(下)」PJニュース2010年4月15日
初出
林田力「二子玉川東地区再開発住民提案の採算性分析」PJニュース2010年4月16日
http://www.pjnews.net/news/794/20100415_9

デジタル映像産業誘致は二子玉川再開発の尻拭いか=東京・世田谷

東京都世田谷区は2010年4月27日に「デジタル映像コンテンツ産業誘致集積支援事業」の推進事業体の公募を発表した。夢のある事業であるが、二子玉川東地区再開発事業(街の名称:二子玉川ライズ)の尻拭いに悪用される懸念がある。

世田谷区にはデジタル映像コンテンツ関連の中小企業を二子玉川地区周辺に集積させる構想がある(「デジタル映像コンテンツ産業」クラスター構想)。これを民間主導で進めるために推進事業体を民間から公募する。公募期間は5月12日から5月26日までである。

アニメなど日本の映像コンテンツは世界的な評価が高く、デジタル映像コンテンツ産業の誘致は夢がある政策である。また、古くから映像関連企業が存在する世田谷区がデジタル映像コンテンツ産業の誘致を目指すことには一定の合理性がある。

しかし、企業の誘致先を二子玉川地区とする理由はない。世田谷区で有名な映像関連の事業所には東宝スタジオ(成城)、円谷プロ(八幡山)、東京メディアシティ(砧)があるが、いずれも二子玉川から離れている。

距離的に離れているだけでなく、電車で移動する場合も不便である。世田谷区の南端に位置する二子玉川から世田谷区北部に直接アクセスする路線はない。そのため、二子玉川から鉄道で成城や八幡山、砧に行く場合は大回りを強いられることになる。

国道246号線沿い(ほぼ東急田園都市線に重なる)にはインターネット、映像制作関連の中小企業等が増加しているが、渋谷へのアクセスが大きな理由である。区内の国道246号線沿いで渋谷から最も離れた二子玉川に誘致する合理性はない。

二子玉川再開発ではオフィス棟として「二子玉川ライズ オフィス」(地上16階、地下2階)が2010年11月末に竣工する予定である。また、東京都が審査中の二子玉川東第二地区再開発事業も建設する超高層ビルの大半が事務所になる計画である。

二子玉川は風致地区であり、これまで大規模なオフィスビルは存在しなかった。そのために再開発で建設されるオフィスビルを埋めるだけのオフィス需要があるかが問題になる。現実に事業計画への意見書・口頭意見陳述でも再開発の事業採算性への疑問が提示されている(林田力「二子玉川再開発への反対意見が情報公開で判明(上)」PJニュース2010年4月28日)。

大きな建物を建てたものの、テナントが埋まらず、行き詰った再開発事業は全国各地に存在する。本来ならば破綻している再開発事業の採算を見かけ上は成り立たせる姑息な手段に、再開発ビルへの公共施設の入居がある(NPO法人区画整理・再開発対策全国会議『区画整理・再開発の破綻』自治体研究社、2001年、98頁)。これは結局のところ、税金による再開発事業の尻拭いである。

地方公共団体の財政状況が逼迫している現在、再開発事業を救済するために高い賃料を払って公共施設を入居させる露骨な再開発事業救済策は困難になっている。その点で補助金を出しての民間企業誘致は、より巧妙である。デジタル映像コンテンツ産業誘致集積支援事業が二子玉川再開発の尻拭いに悪用されないか、世田谷区民は注目する必要がある。

産能大街のイメージ調査と二子玉川再開発のギャップ

産業能率大地域マネジメント研究所のアンケート調査で明らかになった二子玉川のイメージは、二子玉川東地区再開発(街の名称:二子玉川ライズ)とのギャップを改めて印象付けた。同研究所は2010年5月7日に東京都内の5つの街、自由が丘(目黒区など)、代官山(渋谷区)、下北沢(世田谷区)、二子玉川(同)、吉祥寺(武蔵野市)のアンケート調査結果をまとめた。

アンケート調査は東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県の男女1500人を対象として2009年9月に実施した。商業地や住宅地としての印象、一緒に訪れたい相手などについて、インターネット上で質問した。自由が丘は「おしゃれな街」、代官山は「高級な街」、吉祥寺は「いろいろな店がたくさんある街」、下北沢は「若者の街」のイメージが強いという結果になった。

二子玉川のイメージは「緑が豊かな街」で、子育て期や定年後に住みたい街として支持された。この反面、「おしゃれ」「高級」「庶民的」「大人」のイメージ調査では中間に位置し、特徴を示すことができなかった。また、「若者」「いろいろな店がたくさんある」「有名な店・老舗がある」「行ってみたい店がある」のイメージ調査では他の街に差をつけられた。

まとめるならば二子玉川は子育て世代とシニア世代に支持される緑が多くて落ち着いた生活の街となる。この点で緑地だった場所に高層ビルを建設し、マンションや商業施設、オフィス、ホテルにする再開発は二子玉川の特徴を壊すことになる。

第1にオフィスビルやシティホテルは子育て世代と高齢者の街に明らかに不似合いである。

第2に超高層マンションは子育て世代と高齢者の居住には向いていない。高層階では体感できないレベルのものも含めて揺れがある。また、地上へ出るのに時間がかかる高層階住民は外出や人との接触の機会が減る。これらが心身に悪影響を及ぼす。

特に出勤などで毎日外出する必要性がない主婦や高齢者への影響が大きい。子どもの自立発達も遅れる。加えて、高層階居住の妊婦の流産率は低層階居住の妊婦よりも高いという研究結果もある(逢坂文夫「高層居住における健康面からの影響」住宅56巻2号、2007年)。

この点は再開発事業計画審査時の意見書及び口頭意見陳述でも以下のように指摘された(東京都「意見書及び口頭陳述要旨整理表」)。

「超高層ビルは、その居住者が近隣との接触等が少なくなり社会性を欠く傾向が強まる。また、子どもの健全なる生育に支障がある」

第3に商業施設についてである。アンケート調査では二子玉川が他の町に比べて、魅力的な店があるというイメージが乏しかった。足りないものを補うという点では再開発で商業施設を拡充するという方向性には一理ある。

しかし、下北沢のような街の性格を形作る魅力的な店舗の蓄積は歴史的なものであり、再開発で集まるのかという問題がある。実際、再開発ビルに入居する料理店にはコスト・パフォーマンスの良い店はないと指摘される(友里征耶『ガチミシュラン』講談社、2008年、10頁)。

この点についても意見書及び口頭意見陳述では厳しい声が続出した。

「商業都市は渋谷や用賀があるので、ここには必要ない。」

「業務床を作っても、六本木や丸の内のように人の集まるところであれば活性化するが、二子玉川では人が集まらない。商業にしても田園都市線を使用する人は渋谷へ流れてしまう。」

「都心のいくつかの再開発を見ても、結局同じような店舗が並び個性がない。これ以上大規模再開発は無駄である。」

産能大の調査対象となった5つの街は5つとも評判の高い魅力的な街である。調査結果によって、それぞれが突出したイメージを持っていることが明らかになった。この点でビジネス中心の再開発は二子玉川のイメージを弱くしかねない。緑が豊かで子育て世代や高齢者が住みやすいというイメージを損なわずに伸ばしていくことが二子玉川の街づくりの課題になる。

空室になっている二子玉川ライズ バーズモールの一角(撮影:林田力、撮影日:2010年6月27日)
二子玉川ライズ バーズモール