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二子玉川ライズ差止訴訟は洪水被害が焦点

二子玉川東地区再開発差止訴訟控訴審(平成20年(ネ)第3210号)の口頭弁論が2009年9月17日に東京高裁822号法廷で開催された。これは東京都世田谷区の二子玉川周辺住民らが二子玉川東地区市街地再開発組合(川邉義高・理事長)を相手に二子玉川東地区第一種市街地再開発事業の差し止めを求めた訴訟である。一審・東京地裁では請求が棄却され、住民側が控訴していた。

口頭弁論では住民側が「準備書面(3)」を陳述し、証拠を提出。再開発組合は原本を提示していなかった証拠の原本を提示した。住民側代理人の淵脇みどり弁護士は「準備書面(3)」について補足説明した。説明内容は3点である。

第1に都市計画学者の岩見良太郎・埼玉大学教授の立論に沿って、二子玉川再開発は公共性に欠け、違法であると主張した。岩見教授は住民らが世田谷区を相手に再開発事業への公金差し止めを求めて提訴した別訴(平成19年(行ウ)第160号)で2009年7月9日証言し、その証人調書を甲365号証として提出した。

第2に洪水問題である。再開発事業によって洪水被害が激化するとの主張に対する再開発組合の反論は科学的な裏付けがなされていないと批判する。現地進行協議などによって説明することを要求した。

第3に被害の広がりと解決の道筋である。工事強行によって、図面上では予想できなかった被害が顕在化し、拡大している。被害を拡大しないために再開発組合は工事を中止し、計画を見直すべきと主張した。特に具体化されていない第2期事業(U−a街区中心)は抜本的に見直すべきとする。

裁判官は住民側に坂巻幸雄・元通産省地質調査所主任研究官の追加意見書提出の目処を確認した。坂巻氏は住民側申請証人として4月20日に「再開発事業で人工地盤がかさ上げされることによって周辺地域の洪水の危険が増す」などと証言した。これに対し、再開発組合は「人工地盤の下は駐車場などの空間であり、洪水時には水没するため、人工地盤が水害を拡大させるおそれはない」旨を反論した。坂巻追加意見書では再開発組合反論に対する専門的見地からの再反論が予定されている。

この点に関して、裁判官は「洪水時に駐車場が吸収できる水量が明らかでない」として再開発組合に反論の準備書面提出を求めた。但し、まとめて反論したいとの再開発組合の主張を容れて、再開発組合の準備書面提出は坂巻追加意見書提出の後とした。坂巻追加意見書提出の内容を踏まえて、住民側が主張を追加する可能性もあり、口頭弁論は住民側の主張立証の追加という形で続行となった。次回期日は10月29日14時から同じ法廷で行われる。

今回の口頭弁論では洪水対策が大きな論点になることが明らかになった。再開発地域の北側を流れる丸子川は過去に何度も氾濫を繰り返している。ところが再開発では人工地盤で約7メートルもかさ上げする計画である。その結果、水が流れずに滞留し、周辺住宅地の洪水被害を激化させると住民側は主張する。これに対して、再開発組合は洪水時には駐車場が貯留槽代わりになると反論したが、これは別の問題を抱えている。

この議論はV街区に建設されるタワーマンション「二子玉川ライズ タワー&レジデンス」を念頭に置いているが、大事な財産の保管場所になる駐車場が洪水時に貯留槽になる仕組みはマンションの商品価値を損なうものになる。もし洪水被害を緩和させるために駐車場を水没させなければならないとしたら、マンション住民にとっては大きな制約になる。

岩見教授は証人尋問で「新たに住みたいという人々の欲求を満足させることと地域環境を良くしていくことの両者が街づくりの課題」と証言した。再開発マンションに居住する新住民と再開発で被害を受ける住民の対立として論じられることが多いが、二子玉川東地区再開発が新住民を幸せにする計画であるのかも吟味する必要がある。

二子玉川再開発差止訴訟で住民側は洪水被害を改めて主張

東京高裁で2009年10月29日に口頭弁論が開かれた二子玉川東地区再開発差止訴訟控訴審では住民側が改めて再開発による洪水被害の激化を主張した。これは東京・世田谷の二子玉川周辺住民らが二子玉川東地区市街地再開発組合(川邉義高・理事長)を相手に二子玉川東地区第1種市街地再開発事業の差し止めを求めた訴訟である。

住民側は「準備書面(4)」と証拠として坂巻幸雄・元通産省地質調査所主任研究官の「意見書(2)」(追加意見書)を提出した。坂巻氏は既に意見書及び証人尋問によって再開発による再開発による洪水激化の危険性を主張し、再開発組合側は「準備書面(3)」で反論した。それに対する再反論が「意見書(2)」である。そして「準備書面(4)」では「意見書(2)」に基づき、洪水の危険性に論点を絞って主張を展開した。

口頭弁論では住民側代理人の牧戸美佳弁護士が「準備書面(4)」の趣旨を説明した。牧戸弁護士は、坂巻証人の集中豪雨の設定が非現実的であるとの再開発組合の反論に対し、30名の死者を出した平成21年7月中国・九州北部豪雨を例示して十分現実的であると主張した。

また、再開発組合は再開発が周辺地域の洪水被害を激化させないとする点について科学的に明らかにすることも住民を納得させることもしていないと批判した。結論として二子玉川東地区再開発は再開発の名に値しない乱開発であると断言した。

今回は再開発組合側からの書面や証拠の提出はなされなかった。前回の口頭弁論(9月17日)で住民側の主張立証が出尽くされてから、まとめて反論することを希望していたためである。次回期日で反論することになるが、裁判官が再開発組合の代理人に「証拠も提出しますよね」と念押ししていた点が印象的であった。住民側から専門家による意見書が提出された洪水被害について科学的・専門的な知見を踏まえて判断したいとの裁判所の意気込みが感じられる。

次回口頭弁論は12月15日午後2時から開かれる。

二子玉川再開発差止訴訟・洪水被害の立証へ一歩

二子玉川東地区再開発差止訴訟控訴審が東京高裁で2009年12月15日に開かれた。これは東京・世田谷の二子玉川周辺住民らが二子玉川東地区市街地再開発組合(川邉義高・理事長)を相手に二子玉川東地区第1種市街地再開発事業の差し止めを求めた訴訟の控訴審である。洪水被害などを立証するために住民側が申請した証人の尋問可否を判断するために審理続行となった。

口頭弁論では再開発組合側が準備書面(4)、住民側が準備書面(5)を陳述した。住民側代理人の淵脇みどり弁護士が準備書面(5)を口頭で補足説明した。

淵脇弁護士は最初に再開発事業が周辺地域の洪水被害を激化させることが問題であると裁判の経緯に沿って論点を整理した。再開発組合側は人工地盤の下に雨水を流入させるから洪水被害を激化させないと反論するものの、人工地盤がどのような構造になっており、どれだけの水量を保てるのか何ら科学的に論証しておらず、資料も提示していないと批判した。

しかも、準備書面(4)では人工地盤の下の機械式駐車場は約1.5mまでは浸水を免れることができると認めている。これは裏返せば水深約1.5mまでは塞き止めるということである。つまり、周辺地域は約1.5mの浸水を覚悟しなければならない。淵脇弁護士は「再開発組合の主張によって洪水被害が一層明らかになった」とまとめた。
最後に淵脇弁護士は裁判の進行について述べた。住民側は5人の本人尋問を申請している。特に洪水被害に関係ある低地居住者や洪水被害経験のある人らの採用をお願いしたいと結んだ。

裁判長は再開発組合側に「主張は準備書面(4)で尽きたということで宜しいですか」と尋ねた。これに再開発組合側代理人は同意し、「準備書面(4)を良くお読みいただければ」と答えた。

裁判長は住民側には「準備書面(5)を読むと、まだ反論がありそうですが」と水を向けた。これに淵脇弁護士は「最終的には反論するが、本人尋問をした後で最終準備書面を提出する形でお願いしたい」と述べた。

裁判長は「本人尋問の申請は出ているが、尋問事項書は出ていない。どの当事者に何を聞くかを明らかにしていただきたい。洪水被害に重点を置くのであれば、それに沿った形でお願いする」と述べ、住民側に5人分の尋問事項書の提出を求めた。

本人尋問の採否を決定するために弁論の続行とし、次回期日を1月26日14時半からと定めた。その上で住民側に「まだ何か主張がありそうに見えたので、主張があれば次回提出してください。最終準備書面まで取っておかないで結構です」と語った。この言葉に傍聴席の住民から笑いが漏れた。法廷で笑いが起こることは珍しい。
今回の弁論では再開発地域の周辺住民以外にも関心を持たずにはいられない内容があった。本記事では2点指摘する。

第一に再開発組合側は再開発地域の人工地盤が洪水時の周辺住民の避難場所になると主張する点である。住民からすれば1.5mの洪水は床上浸水であり、甚大な財産的損害を確実に受けることになる。しかも想定される洪水は一般の成人でも首まで浸かるレベルであり、安全に避難できる状態ではないことは淵脇弁護士も弁論で指摘した。
それ故に住民からは到底容認できない主張だが、再開発地域のマンション「二子玉川ライズ タワー&レジデンス」購入者にとっても問題がある。機械式駐車場を貯留槽代わりにすることや人工地盤を周辺住民の避難場所にすることはマンション住民にとっては負担・制約である。

社会的には地域に負の効用をもたらしたマンションによる負担は正当であるが、マンション購入検討者にとっては悪条件の物件となる。分譲マンションではデベロッパーは売ったら終わりであり、マンション購入者が制約や負担を負い続けなければならない。実際、ビジネス誌でマンション建設による電波障害解消のための共聴施設がマンションの新たなリスクになると指摘されている(「盲点は都会に潜む"陰"」日経ビジネス2009年12月7日号95頁)。

住民側は再開発組合側の主張が事実と異なると反論するが、仮に再開発組合側の主張が正しいならば、マンション購入者は洪水時に機械式駐車場を水没させることや周辺住民の避難場所となることを覚悟しなければならないことになる。

第二に多摩川スーパー堤防との関係である。再開発地域を人工地盤でかさ上げすることに対し、住民側は周辺地域を犠牲にして洪水被害から自衛するためのものと批判した。これに対し、再開発組合側は多摩川スーパー堤防に人々が安心安全にアプローチするためのものと位置付ける。

しかし、スーパー堤防自体が税金の無駄遣いと古くから批判されている。二子玉川南地区の堤防整備も地元住民の反対が強く、国土交通省は当初計画より小規模化した暫定堤防整備に転換したが、それでも反対の声が上がっている。暫定堤防でも堤防のサイズが現状にそぐわない上、堤防建設で自然環境が失われ、川岸が南地区と分断されることで無法地帯化する恐れがあるためである。

鳩山政権の理念は「コンクリートから人へ」である。これは開発優先・公共事業偏重・土建国家に対する国民の厳しい批判を受けてのものである。スーパー堤防を前提に再開発を正当化する再開発組合の論理は、無駄な公共事業削減を求める立場からも議論を呼びそうである。

初出:「二子玉川再開発差止訴訟は洪水被害が焦点に」JANJAN 2009年9月19日
http://www.news.janjan.jp/area/0909/0909180387/1.php
「二子玉川再開発差止訴訟・住民側はあらためて「洪水被害」を主張」JANJAN 2009年10月30日
http://www.news.janjan.jp/living/0910/0910292391/1.php