規制改革推進会議が全農改革を提言

政府の規制改革推進会議の農業ワーキング・グループは2016年11月11日に全国農業協同組合連合会(全農)改革の提言をまとめた。

提言は全農に生産資材を仕入れて農家に販売する「購買事業」からの撤退を求める。購買事業は取扱高が増えるほど手数料収入を稼げるため、生産者により安く資材を提供するインセンティブが働かないためである。組合員の農産物を扱う販売事業では、全農が売れ残りのリスクを取らずに手数料収入を稼いでいるとみて、全量買い取りを求める。

提言の背景には全農が農家の所得向上を阻んでいるとの問題意識がある。改革が進まなければ、国が「第二全農」など新組織を立ち上げることも提言する。政府・与党は全農問題を農業改革の本丸と位置づけており、安倍晋三首相も「農協は真摯に受け止めて実行してほしい」と迫る。

FacebookやTwitterなどのSNSには農協に厳しい意見が寄せられた。「JAこそ解体しなければならない組織!これからの時代!農家の人たちを無能にする」

「規制緩和をここでやらずして始まりません。農協の果たしてきた成果は非常に評価していますが、農家を束縛している面もまた事実。開かれた農業を実現するために農協さんに大変革を受け入れてもらいたいですね」

「農業経営してるご子息を雇用して、農業人口をあえて減らしてるお花畑な思考回路の団体ですよね?単なる「ご近所付き合い的な甘やかしの団体」ですよ。JA関連の組織の方と話をすると、世間とのあまりの違いにがっかりします」

「そもそもアンタらの自浄能力に期待できないからです!」

「農家しているが、もう全農など問題外、イラナイ組織」

「農協が本気農家のためになっているのか。ノー。改革は当然の事」

「農協は、農家の搾取機関。農協組織の改革なしで、日本農業の未来はない」

「いいかげんに、たかる風習は、やめられないのかな?農家をダメにした団体なのに。国民もいい加減に気づいてほしい。止めさせるでは、なく解散させた方が、農家の為、国民の為です」

「絶対やった方がいい、農林にかかわる議員や農協林業関係なんか癒着しまくりの可能性がありありだ。むしろこの機会に膿を出してほしい。早急且つ粛々と行っていただきたい」

「JAは無くても農業が出来ます。仕事の出来ない無駄な職員がいる。私も農業していますがJAの口座から私達が納得出来ないくらい金額の出入りあります」

「こんな団体はゴミのヤクザよりもひどい 農協を食わせるためにまともな農家は苦しんでいる まともな農家は農協がなくても困らない」

「農家が儲からないのは、全農に問題があるからだろ? ふざけてんじゃねえぞ、全農!」

「今の農協は既得権の温床、そもそもライバルがないと腐ってしまうのが組織というもの。第2農協は必要」

自民党農林族議員には「これ(規制改革推進会議の提言)を実行させたら自由主義の死。いつから日本は統制経済になった」と反発する声もある(「<全農改革>不当な介入 議員も農協も猛反発」河北新報2016年11月21日)。これに対してもSNSでは批判の声がある。

「何が「自由主義の死」だよ。農協こそ社会主義的搾取の典型だろ」

「新自由主義的発想は誤りだみたいな意味不明な議論が跋扈してるが、むしろこんな封建主義丸出しの現状の方が異常なのでは」

農協手数料の弊害

農協は農家が農作物を出荷する際に「手数料」を徴収する。それがJA全農の大きな収入源となっている。国内の農業資材や農産物の価格を高くすれば、農協はそれに比例して多くの販売手数料収入を得ることができる。不必要に高価格・高コスト体質になる原因になっている。

農事組合法人「さんぶ野菜ネットワーク」の下山久信事務局長は以下のように指摘する。「野菜を全農の青果センターに出荷すると手数料が8.5%取られ、それに全農県本部から1%取られ、計9.5%も取られる。これは手数料の二重取りだ」(「農水史に残るJA幹部の勘違い発言に、小泉進次郎氏がぶち切れ!「農協改革は終わらない」と決意を新たにした」産経新聞2016年10月14日)

自民党の農業改革会合で小泉進次郎農林部会長は手数料の削減を求めた。これに対し、全農幹部は「従業員を養う財源だから簡単に切るのは賛成できない」と述べた。小泉氏は強く農協を批判した。「じゃあ、いったい農家って農協職員を食わせるために農業やっているんですか。それ違うじゃないですか!」(「小泉進次郎氏「それ違う!」 JA全農幹部を厳しく批判」TBS 2016年9月29日)

「リスクは農家が負ったまま、農協は販売手数料で稼ぐというリスクの少ないビジネスモデルからリスクをとったビジネスモデルへの転換が必要になります」(河野太郎「農協改革とは」ハフィントンポスト2015年2月10日)

「重要なのは、従来のやり方を続けるのではなく、消費者のニーズに合わせて、加工や販売先の開拓に乗り出し、リスクをとりつつも、組合員の所得を増やすことです」(時論公論「迷走する農協改革の議論」NHK 2015年1月31日)

山形県の複数のJA農協がコメの販売手数料でカルテルを締結した。「農家のための組織であるJAが、独占禁止法によって守られた独占的な権利を主である農家に対して行使したのである。これは、JA農協が農家のための組織ではないことを如実に物語っている」(山下一仁「山形農協カルテル事件で報道されない大きな問題」WEBRONZA 2013年8月16日)。

全農の韓国産肥料に農協不買の声

農協の韓国肥料輸入が批判されている。全国農業協同組合連合会(JA全農)は2016年8月15日、生産資材価格を引き下げるために、韓国産肥料を一括輸入すると発表した(「韓国産肥料を一括輸入=資材値下げ、第1弾−JA全農」時事通信2016年8月15日)。地域の農協を通じて農家に販売する。

これに対して農協不買を唱える声が出ている。韓国産肥料に対しては品質面の不安が大きい。地産地消、食の安全に逆行する。消費者が購入できるものがなくなる。肥料は農協を通さず、国内の廃棄食品を活用できるのではないか。農家には「韓国産肥料を使っていません」マークが必要になる。インターネットでは批判が殺到しており、全農解体論が出ている。全農改革をしなければならない。

以下はTwitterの指摘である。「「ゼンノウ」って「ムノウ」の間違いではないのか。韓国産の「水増し」肥料を使った農協の出荷作物は買わない」

「農協加盟の農家の産物は、今後、購入には躊躇せざるを得ないな。農協が取扱う農産物は韓国製肥料が使用される確率が高くなることから、益々ジリ貧になるのだろうな」

「JA全農には本当にがっかりした。毒物を輸入するのと変わらない。これからは、韓国からの輸入肥料を使った作物か否かを表示してもらいたい」

「全農は、韓国産の肥料でできた野菜か、国産の肥料でできた野菜か、明記すべし。 食の安全性が問われる」

「国産同成分の肥料より4割ほど安くなるという甘い言葉の人殺し肥料を配ろうとするJA全農。食べ物はほんと洒落になりません。バイオテロです。全国の農家さん『韓国製肥料は一切使用しておりません』が売り文句になりますよ」

肥料は農家だけの問題ではない。化学肥料は水に溶けやすい。耕地に投入した多くが地下水や河川に流れる。従って、安心安全から程遠い肥料を利用することは環境破壊行為になる。

これまで日本の農家が農協から割高の資材を購入させられていたことが問題である。日本農業法人協会によると、韓国の生産資材を調査した結果、肥料価格は平均で日本の半分程度、農薬も日本の3分の1程度という(「JA全中など農薬・肥料、価格下げへ協力」産経新聞2016年8月20日)。韓国肥料輸入で安くなるということは裏返せば、これまで農協が割高な資材を農家に販売していたことを意味する。

日本農業法人協会の調査では韓国の生産資材が日本よりも安い理由の一つは農業団体の低いマージン設定を挙げる。農協がマージン取り過ぎであることが問題である。農協がホクレンに払うマージンが無くなれば大手商社並みに安くなるとの指摘がある。これを透明化して農家のために資材費を下げろという話であった。

従って韓国産になっても農協の中抜きが増えるだけで農家は得しないことが目に見えている。今回の韓国産肥料輸入も韓国の悪徳業者が肥料と称した廃棄物を日本に売りつけるため、JA全農幹部に売り上げバックマージンの約束をしたのではないかとの推測がTwitterではなされている。

農協こそが若い農家の夢を潰す元凶と批判される。一方的にスケジュールを決め、決まった時期に決まった量の農薬やら肥料やらを押し売りし、中間マージン抜きまくりでぼろもうけ。言うことを聞かない農家には販路を邪魔するなどの徹底した嫌がらせをする。

農協に「あれ買え」「これ買え」と言われて借金だらけになり、農地をとられた農家がいる。農家も先祖代々の土地を守るという意識ではなく、農地改革で自分の土地となったという人々では意識が違う。農協の言いなりになってワガママに付き合わされてきた国内肥料メーカーも悲惨である。

「農家の相互扶助組織として流通や物資の融通で助け合うのは良いことだ。だが、組織維持のために、流通を独占・寡占する金融・流通コングロマリットである農協が、農業の産業競争力強化に抵抗するのであれば、問題である。農業の競争力強化には、流通過程に競争原理を導入することが欠かせないからだ」(堀義人「農協を分割しネット等による新規参入を促し農業流通改革を断行せよ!農林水産2」【100の行動 その45】2015年11月18日)

韓国産肥料輸入の決定に対しては、農協改革を元凶とする見方がある。たとえば以下の報道である。「農林水産省は、JAグループや関連業界が資材価格の引き下げに動くよう新法「生産資材基本法」(仮称)の制定も視野に入れており、割安な肥料の販売は政府の圧力をかわす狙いもありそうだ」(「JA全農が割安肥料 韓国製販売へ 大規模農家向け」北海道新聞2016年8月16日)。

しかし、実態は逆である。小泉進次郎議員らは農協がマージンをとりすぎているなど国内の流通の問題を指摘した。自民党の求める流通の透明化は、農協の支所によって資材の価格が極端に違う事例を出した追及であった。韓国からの輸入は農協が勝手に進めたことである。国内流通には手を着けず、特定の農家しか使えないような縛りの海外産肥料を輸入するから安くなったと強弁する全農はやはり問題のある組織である。これは「今まで通り国内流通は全農がやりたい放題します」という宣言と変わらない。

Twitterで以下の指摘がある。「韓国産肥料の件、農協擁護派が「農業大規模化・大手企業の農業参入反対」と言うが逆だろ、農協が既得権や癒着に走るから有害な肥料が韓国からやって来るのだ。やはり農協は改革、寧ろ解体が必要だ」。この批判者は伝統的な左翼革新と右翼保守が農協擁護で足並揃えていることを馬鹿馬鹿しいと嘆く。古い保守と古い革新が既得権擁護でスクラムを組むことは滑稽である。

「もはや各々の既得権を守ってもらう利益代表を政界に送り込むという構造は、左右共に成り立たなくなり、むしろこうした旧態然として構造に所属しない層の人たちは、既存の既得権を壊すことが重要であると考えているのではないだろうか」(高橋亮平「蓮舫代表になっても無投票で「社会党末期の道」ならむしろ「小池新党」に期待が集まる」Yahoo!ニュース個人2016年8月24日)

Twitterでは以下の指摘もある。「農協に農業を任せれば、日本の農業は崩壊する。価格競争が激化し、「品質競争」が疎かになる。TPP妥結を予想せず、農業をダメにしてきたのは農協だ」。JAの金融業務の杜撰さなど突っ込みどころありすぎて困る。

農協パワハラ休業訴訟は565万円支払い

福井市南部農業協同組合(JA福井市南部)ではパワハラ休業訴訟が起き、2016年8月1日に福井地方裁判所(佐藤志保裁判官)でJA側が被害男性に約565万円を支払う訴訟上の和解が成立した。JA福井市南部の男性幹部(55)は2014年7月、パワーハラスメントや過重労働で休業を余儀なくされたとして、安全配慮義務違反などで同JAに約620万円の損害賠償を求めて提訴した。

指導経済部長だった男性は2013年の組織改編で業務が増えた上、組合員からの債権回収も担当。同JAに膨大な負債を抱えていた組合員からの回収が問題となったが進まず、当時の理事長から繰り返し厳しく叱られるなどした。理事長は「いい学校を出ているのに本当に仕事ができない」などと叱責した。

男性はパワハラの重圧から10月、この組合員の倉庫から無断でコメを搬出する行為に及んだ。これは不起訴となったものの窃盗事件に発展した。年末から休業を強いられ、2014年3月にうつ病と診断された(「パワハラ休業訴訟で和解、福井地裁 JA福井市南部と男性幹部」福井新聞2016年8月1日)。

男性は2015年3月に福井労働基準監督署へ労災認定を申請、同年9月に認定された。同労基署の調査結果は「理事長の日常的な圧力が窃盗事件につながったと考えられる」としている(「福井のJAでパワハラ、労災認定 幹部男性が当時の理事長から」福井新聞2016年3月1日)。男性は「労災認定された問題なのだから、元理事長はしっかり責任をとってほしい」と述べている。

JA福井市南部事件は農協のブラック企業体質を示す事件である。パワハラと過重労働のセットであり、典型的なブラック企業案件である。パワハラと過重労働のセットは東急ハンズ過労死と重なる。原告男性は組合員からの債権回収を担当させられたという。債権回収はブラックな仕事になりやすい。

問題点の多いJA福井市南部事件であるが、その真骨頂はやはり「いい学校を出ているのに仕事ができない」とのパワハラ発言である。産経新聞が、この発言を見出しにしているほどである(「「いい学校を出ているのに仕事ができない」と叱責、パワハラ休業訴訟で和解」産経新聞2016年8月1日)。「いい学校を出ているのに」というパワハラは理事長の学歴に対する嫉妬が表れていて醜い。「仕事ができない」は適材適所ということを理解していない。仕事ができる人は何でもできるという考え方は幼稚である。その人に向いている仕事を与えない理事長が無能である。

JA福井市南部事件に対してTwitterでは以下のようなコメントがなされた。「農協の代表理事組合長や理事、監事は結局のところ地方の有力農家で殿様になっている。だからTPPに打って出ることが出来ない」。農協のブラック企業案件はJA福井市南部だけではない。津山農業協同組合(JAつやま)では残業代未払いの裁判も起きている。

農協で金銭着服相次ぐ

農業協同組合職員の金銭着服が2016年7月に相次いで発覚している。佐久浅間農協(佐久市)は9日、40代の女性職員が、客の定期貯金15件を不正に解約して計1443万円余を着服したと発表した(「佐久浅間農協で女性職員が1443万円着服」信濃毎日新聞2016年7月10日)。レーク大津農協(大津市)は15日、同組合瀬田支店の信用渉外担当だった男性職員(27)が2015年8月から2016年6月に定期積立金契約の掛け金から計383万円を着服していたと発表した(「27歳の農協職員が383万円着服 「ボートレースに使った」」産経新聞2016年7月15日)。

どちらの事件も契約者からの指摘で発覚しており、農協の自律性が疑問視される。佐久浅間農協事件では契約者が2016年6月に定期貯金を確認した際に解約されていたことに気付き、相談して発覚した。レーク大津農協事件では契約者が6月28日に組合の窓口を訪れた際、同組合が把握している掛け金の記録と、契約者が実際に支払った掛け金の額が違うことが分かり、発覚した。契約者の指摘がなければ発覚しなかったということから、着服は氷山の一角ではないか。

着服事件の背景には農協の組織的な問題がある。佐久浅間農協事件では井出健組合長が記者会見し、管理監督が不行き届きだったとして陳謝した。レーク大津農協事件では嶋口吉信常務理事が「第三者が確認する作業が甘かった」と述べている。佐久浅間農協事件では刑事告訴を検討しているとするが、レーク大津農協事件では両親が全額弁済したことを理由に刑事告訴をしないとする。処分の甘さも議論になるだろう。

つがるにしきた農協(青森県つがる市)では、つがる統括支店元支店長が2016年7月22日に架空貸し付けでコンピューター端末を不正に操作し100万円を詐取したとして、電子計算機使用詐欺の疑いで逮捕された。青森県警は被害総額が5千万円超に上るとみている(「農協元支店長、100万円詐取の疑いで逮捕 青森・つがる市」フジテレビ2016年7月22日)。

逮捕容疑は、同支店金融課長当時の2011年9月26日頃、親族男性から借り入れの申し込みがあったように装って端末を操作、親族男性の共済金を担保に100万円の貸し付けを行い、親族男性名義の口座に振り込むなどして不法な利益を得た疑い。振込先の口座も容疑者が書類を偽造して開設した模様。

同農協は2015年12月、業務上横領容疑で容疑者を刑事告訴。県警は、端末の不正操作を経て最終的に現金を引き出した疑いが強まったとして、逮捕罪名を電子計算機使用詐欺とした。容疑者は親族数人の共済証書を不正に再発行して架空貸し付けを繰り返し、支店長に昇任後も犯行を続けていたとみられている(「5千万着服でJA元支店長逮捕」東奥日報2016年7月22日)。

相次ぐ金銭着服は農協改革による監査体制の強化の必要性を示すものである。これまでは全国農業協同組合中央会(JA全中)が地域農協を監査していたが、中央集権的・硬直的な監査では十分な対応ができないという問題がある。農協の上部団体が農協を監査することは、監査の第三者性という点で問題がある。農協という体質的な問題に踏み込めない危険がある。

そこで農協改革によってJA全中の監査権限をなくし、地域農協は監査法人を自由に選択できるようする。しかし、ここにも脱法ハウスや脱法ドラッグのような法の抜け道探しの問題がある。JA全中は監査部門を切り離し、2017年7月に新たな監査法人を立ち上げ、農協監査の新たな受け皿を目指す方針という(「JA監査部門、独立へ 農協改革の一環 17年夏に新法人」日本経済新聞2016年6月27日)。JA監査部門からなる監査法人が地域農協を監査するならば農協改革の意義を弱めてしまう。

農協に不公正な取引方法で排除命令

林田力

土佐あき農業協同組合(JA土佐あき、高知県安芸市)が農家に生産したナスを全て同農協に出荷するよう圧力をかけたとして、公正取引委員会は独占禁止法に基づき、同農協に圧力をやめるよう排除措置命令を出す方針を固めた(「高知の農協に排除命令、公取委方針 「農家に取引圧力」」朝日新聞2016年5月31日)。

これは農家の取引の自由を侵害する。販売者や消費者と直接繋がろうとする農家の妨げになっている。農協が農家の利益になっていない。農家と消費者の中間搾取者になっている。農協が打ち倒すべき既得権の擁護者になっている。このような農協ならば存在しない方がいい。既得権益は捨てるものである。公正取引委員会がメスを入れることは正当である。

「農協の事業を利用するかどうかは農家の経営判断だ。農協が販売・購買事業を利用することを農家に強要したり、農協以外の経路を使うことを妨げたりするのは許されない」(「農協は独禁法の順守徹底を」日本経済新聞2016年6月12日)。

この問題の救い難いところが、農協側が取引制限を道徳的に悪いことと思っていない可能性があることである。農協の狙いの一つには生産者の団結による取引競争力の強化がある。個々の農家が商人に農作物を販売すると買い叩かれることがある。それを避けるために個々の農家の農作物を農協に集める。この考え方に立つならば、個々の農家が直接販売者や消費者に販売することは農協の取引競争力を弱めることになり、好ましくないとなってしまう。

実のところ、これは労働組合では普通のことである。個々の労働者が労働協約を無視して個別に使用者と労働契約を締結すれば、その労働者が労働組合員ならば、労働組合から制裁を受けるだろう。労働組合には、その権限が認められている。このような考え方に馴染んでいると農協の件も何が悪いのかとなってしまう。貧困ビジネスなどの悪徳商法は悪事と分かっていながら、金儲けのために悪事を働いている。ところが、農協の取引制限は悪事を働くという自覚さえないかもしれない。このために悪徳商法以上に救いがたい。

この問題は新しい経済体制を考える上でも難問がある。株式会社中心の経済から協同組合などの比重を高めていきたいとは、よく言われることである。しかし、この事件から分かるように協同組合も市民の自由の妨げになる存在である。安易に協同組合を理想視できない。

組合を強くさせなくてはならないとよく言われるが、組合の強さは構成員個々の自由を制限することによって得られるという逆説的な現実がある。これが組合というものに大多数の一般人が必ずしも積極的になれない理由だろう。新しい経済体制でイメージするものは搾取されない虐げられない経済であるが、組合に自由を制限されるならば本末転倒になる。

農協への排除措置の評価

土佐あき農業協同組合が農家に生産物を全て同農協に出荷するよう圧力をかけたことは不公正な取引になる。この事件に私が関心を持った背景は、希望のまち東京in東部読書会である。そこではリバタリアン社会主義が新たなパラダイムとして提示された。

福祉国家は国家主義から離れられない。国家主導の福祉政策が人々の本当に必要なものを提供できず、非効率に陥る例はあちこちにある。土建国家の土建が福祉に代わっても税金が官僚や政治家の都合のよい財布になる点は変わらない。誰も通らない道路建設が税金の無駄遣いであるように、誰も住みたがらない時代遅れの団地を大量建設することも税金の無駄遣いである。

故にリバタリアンかつ社会主義となる。リバタリアン社会主義の担い手としては協同組合が指摘される。しかし、この事件は協同組合が組合員の自由を損ないうる存在であることを示している。ナイーブな協同組合絶賛は危険である。新しい経済システムの担い手として協同組合を考えるならば個々人の自由を尊重する協同組合を考えなければならない。

一方で公正取引委員会が農協に排除措置命令を出すことに対し、農協がTPPや農協改革に反対していることへの意趣返しと捉える向きもあるが、これには賛成できない。

第一に独立行政委員会である公正取引委員会の独立性を無視している。農協も市場の中では一つの事業者であり、市場ルールに反した行動があれば不公正な取引に問われることは当然である。農協だからという甘えはダブルスタンダードになる。

第二に農協の独占禁止法違反は今回が初めてではない。「公取委によれば、農協の不公正な取引方法に対する法的措置や警告は1989年から今年3月末までに12件あった。これとは別に、山形県では5つの農協が話し合いでコメの販売手数料を従来の定率から定額に変え、その額の目安も決めた事実が発覚し、公取委は14年に警告処分を出した」(「農協は独禁法の順守徹底を」日本経済新聞2016年6月12日)

農協を叩くために、このような事件が作られたのではなく、このような問題があるから、農協改革が必要になる。仮に農協叩きの意図があったとしても排除措置は支持できる。

第一に本件には取引の自由を損なわれた農家という被害者が存在する。被害者は救済される必要がある。

第二にTPPに反対する立場も、農協の既得権を守るためにTPPに反対している訳ではないだろう。むしろTPP反対派こそ農協の既得権などを批判し、改革の方向性を示すべきである。さもなければTPP反対論が既得権益擁護の議論に映ってしまい、広汎な市民的支持を得られなくなる。

農協でもサービス残業ブラック企業

農協でもサービス残業ブラック企業が問題になった。津山農業協同組合(JAつやま、岡山県津山市)の職員ら214人(その後、221人)が農協を被告として岡山地裁津山支部に集団提訴した。残業代や休日勤務手当などを長期間にわたり支給せず違法だとして、計3億円近くの支払いを求める(「JAつやまの職員214人、残業代3億円未払いと集団提訴 職員の半数超、極めて異例の規模」産経新聞2016年4月20日)。

労働基準法上、未払いの額に応じ上乗せして使用者に課す付加金計約2億5千万円も求め、総額は計約5億5千万円に上る。金額が大きいため岡山地裁本庁で審理することになった。津山農業協同組合は正職員約400人であり、正職員の3分の2が提訴したことになる。

原告の職場は事務職のほか、農家を指導する営農センター、ガソリンスタンドなどである。いずれも津山農協労働組合の組合員。訴状などによると、農協では長年サービス残業が常態化。津山労働基準監督署は2014年11月、臨時の立ち入り検査をして是正勧告したが、農協は未払い残業代の一部しか支払いに応じなかったという。

第1回口頭弁論は6月22日に岡山地裁で開かれ、JAは未払いの残業代はないとして、訴えの棄却を求めた。この手の問題は、これを払ったらやっていけないと開き直りがちであるが、実態は上の遊んでいる老害のバカ高い給料を維持するためだけに下から搾取しているだけである。農協ではサービス残業だけでなく、自爆営業も常態化しているとの指摘もある。

農協の手口はブラック企業そのものである。農協は是正勧告後の翌15年3月に代理級職員を「管理監督者」に一方的に変更した。原告代理人の則武透弁護士は「代理級職員には課長代理も含まれ、とても管理監督者とはいえない」と主張する(「農協正職員の3分の2が提訴 残業代3億円請求 岡山」朝日新聞2016年6月27日)。

名ばかり管理職はブラック企業の十八番である。既に管理監督者の濫用は企業側で敗訴事例が続出している。わざわざ稚拙な手口をすることは愚かである。ブラック士業が入れ知恵したのだろうか。

一方で東急ハンズ過労死など通常のブラック企業事件と異なり、農協職員への風当たりも強い。民間労働者の感覚で残業に値する労働をしているかという疑問である。農協に限っては「金を要求するなら仕事しろ」と言いたいとの声がある。職員の横領を徹底的に事件化しろとの主張がある。要は本業以外の手間賃をサラリーマン並みに「くれ」という話とする。給料を減らして残業代を払ってやれとの皮肉も出た。

Twitterでは以下の指摘がある。「昔からこんな事が日常茶飯事やで、トラクター買う金を貸して払えなければ自殺するまで追い込んで、追い込ませた職員も鬱で退職とかな。残業代ぐらい朝飯前だろ」

農家のための農協であるはずであるが、農家を搾取し、自分達が肥太っているように映る。現実に農協が農家に不公正な取引を強要する独占禁止法違反の例がある。ゆりかごから墓場まで農家を薬漬け機材漬け借金漬けにして貪る営利団体とも酷評される。

これに対しては農協にブラック企業体質があるという問題と、職員の残業のクオリティーが低いという問題は区別できるとの再反論がある。農協職員に未払い残業代請求を支持するか否かは意見が分かれるが、どちらの立場に立つとしても、農協というシステムが破綻しつつあるという認識は共通する。Twitterでは以下の呟きがなされた。

「農協という組織自体が既得権益の塊なので、あまりやりすぎると農協という組織体系自体吹っ飛びそうだけどなぁ。っていうぁ吹っ飛んでいい」

「農協の職員って本当はもっと少なくてもいいだろうけど、リストラできなそうだから、その辺も問題かもしれんね」