トステム創業者長女が遺産申告漏れ

林田力

旧トステム(現LIXILグループ、東京都江東区)の創業者で、2011年4月に84歳で死去した潮田健次郎氏の長女側が東京国税局の税務調査を受け、遺産のうち資産管理会社(非上場)の株式の評価額をめぐり、巨額の申告漏れを指摘された。申告漏れの金額は時事通信によると百数十億円、朝日新聞によると約110億円である。潮田氏の資産約220億円が非上場の不動産管理会社の株式に形を変え、資産の評価額が6割近く少なくなったと判断された。過少申告加算税を含む追徴税額は時事通信によると60億円超、朝日新聞によると約60億円に上る。

トステムは住生活グループを経てLIXIL(リクシル)グループとなった。有価証券報告書や関係者によると、潮田氏は08年3月末時点で、同グループ株を1347万5000株(当時の時価で約200億円)保有する大株主であった。翌09年3月末時点では大株主ではなくなっていた。その間に株式を売却して約220億円を得た。

潮田氏の長女が代表取締役、潮田氏が取締役を務める非上場の不動産管理会社(資産管理会社)は増資を行い、約790株を発行した。この増資は潮田氏が保有していた株式売却資金で購入した金融資産を管理会社に現物出資するなどの方法で行われた。これによって潮田氏が保有した同グループの上場株は、時価がわからない非上場会社の株式に変換された。

潮田氏は2011年4月に死去した。長女は同社株を相続したと申告し、相続税を現金で納付するのは困難として、同社株で物納した。この際、長女側は管理会社株の価値について、国税庁の財産評価基本通達に基づき、事業の種類が似た複数の上場会社の株価を基に約85億円と評価した。

これに対して国税局は、現物出資など一連の行為は税負担軽減を目的とし、経済的に不合理と判断した。長女側の評価は「著しく不適当」と指摘し、評価し直した上で、管理会社株には約2倍の価値があるとして申告漏れを指摘した。長女側は更正処分を受けたが、期限内に異議を申し立てなかった。再評価に伴い、物納済みの管理会社株の価値も上がり、追徴税額の一部は補填された。長女側は残りを現金で納付したとされる。



この事件のポイントは、国税庁の財産評価基本通達に従って相続財産を評価したが、不当な節税目的であるとして申告漏れとさたことである。日本社会には人権や公平性という法の精神を無視し、表面的な合法性で鬼の首をとったような態度になる嘆かわしい風潮がある。

ブラック企業に法の抜け穴を指南するブラック士業が典型である(林田力『ブラック企業・ブラック士業』Amazon Kindle)。借地借家法の借家人保護を免れるためのゼロゼロ物件や脱法ハウスも一例である(林田力『東京都のゼロゼロ物件』Amazon Kindle)。薬事法の規制を免れる危険ドラッグ(脱法ドラッグ、脱法ハーブ)も同じである(林田力『脱法ハーブにNO』Amazon Kindle)。

表面的な合法性で正当化するブラック士業や貧困ビジネス、危険ドラッグ売人は思考が浅すぎる。己の行動が正しいかを事前に顧みることができない。ただの卑劣漢に過ぎない。このような風潮は社会が根本的に依って立つ価値観を破壊しかねないものである。トステム創業者長女への追徴は、この種の表面的な合法性のみを追求した脱法的な節税を許さないという意義がある。



実際のところ、トステム(LIXIL)はブラック企業という言葉が普及する前から悪名高い企業であった。トステム綾部のトステム綾部工場では22才の中田衛一氏が急性心停止により死亡した。また、グループのスーパービバホーム豊洲店でもクルーが死亡したが、会社側の対応が批判された。当初、ビバホームは死亡原因を急性心不全と虚偽の発表をした。しかし真実を隠蔽することはできず、ビバホームは「不幸な事故」に変更した。

問題はビバホームが取締役名義で従業員向けに発表した「不幸な事故」の原因である。「不幸な事故の原因の主たるものは、私生活におけるトラブルだと思われます。ご家族とは別に、親しい方と生活を共にするかどうかで悩んでおられた。経済的にも多額の個人借財があった」とする(取締役上席執行役員ホームセンター事業部長「スーパービバホーム豊洲店クルーの皆様へ」2007年7月26日)。

ビバホームの発表内容は自殺したクルー(既婚者)の名誉を大きく損なうものである。故人の私生活の一部をビバホームが公開することは許されるのか。ビバホームに対する反発は当然のことながら強い。保身のための無責任な主張と憤っている(林田力『東急不動産係長脅迫電話逮捕事件』「東急ハンズ過労死とスーパービバホーム豊洲店」)。表面的には粛然と業務が行われていても、薄氷の下には不信の濁流が逆巻いていた。



私がトステムの問題を認識した契機は東急不動産消費者契約法違反訴訟であった。東急不動産の代理人・井口寛二弁護士(井口寛二法律事務所)は、トステムが訴えられた裁判のトステム代理人やトステム建材産業振興財団の評議員になっていた。この井口弁護士は改竄した証拠を提出し、母親の危篤を理由として原告本人尋問を当日になって延期させて証拠収集を行うなど、東急不動産を敗訴させないためだけに悪行の限りを尽くした(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社)。

それはブラック士業の本領発揮と言いたくなるものであった。井口寛二は火を吹き消そうとして新たな燃料を供給していた。井口寛二が東急不動産の代理人になったことで、悪意を司る神が原告に禍々しく笑いかけたことは間違いない。それ故にトステムに対する印象は限りなく黒に近い灰色にまで成長した。トステム創業者長女の遺産申告漏れにも納得という感覚になる。

「トステム創業者長女、遺産110億円申告漏れ 国税指摘」朝日新聞2014年12月8日
「遺産百数十億円申告漏れ=旧トステム創業者長女―60億円超追徴・東京国税局」時事通信2014年12月8日