慶応大学プロレス研究会が慈眼寺チャリティ学生プロレス

林田力

埼玉県越谷市の慈眼寺で2010年8月9日、KWA慈眼寺チャリティ学生プロレスが開催された。主催者のKWAは慶應義塾大学プロレス研究会で、他の大学の団体からも選手が出場する学生プロレスとしては豪華な興行になった。寺院を会場とし、地域の盆踊りと一体となったイベントという非常にユニークな試みである。

会場の慈眼寺は東武伊勢崎線せんげん台駅が最寄りで、駅から大泊平方循環またはまつぶし緑の丘公園行きのバスに乗り、安国寺入口にて下車し道なりに徒歩約5分の場所にある。周辺にはマンションが見当たらず、一戸建てと田畑が広がる。都心への通勤圏に位置するが、空が近くに感じる地域であった。

この興行は二部構成で第一部と第二部の間に盆踊りが行われた。第一部第一試合は河原のぞみVS雫あきの女子プロレスである。河原選手は今回がデビュー戦である。雫選手は現役女子大生レスラーとして話題となった選手である。レスリングでは全日本学生選手権、全日本女子オープン選手権ともに準優勝した。得意技はフイッシャーマンズ・スープレックスなどである。

これまで雫選手は「リングに咲く一輪の花」と紅一点であることが強調されていたが、かわいい後輩である河原選手との試合ではややヒールぶりを発揮した。序盤では河原選手が猛攻するも、すぐに雫選手のペースとなり、アルゼンチン・バックブリーカーで河原選手を下した。

第二試合は軍団ひとり(日本大学プロレス研究会OB)VSエロワード・ネゲロ(SWSガクセイプロレスOB)である。学生プロレス界で屈指の実力者ネゲロ選手とネタプロレスの第一人者・軍団ひとり選手の対決という好カードである。

試合は両者の力比べで始まった。ネゲロ選手がタックルをかければ、軍団ひとり選手がドロップキックで場外に飛ばすなど、技を掛け合う攻防が続いた。最後は軍団ひとり選手がオリジナル技「フェイカーホリック」で勝利した。この技は軍団ひとり選手が時に忘れながらも3年近く温め続けてきたものという。軍団一人選手にとって珍しい真面目な試合となった。

第三試合は剛田高橋VSアクメ将軍(日本大学プロレス研究会)である。レフェリーは河原選手が務めた。巨体の剛田選手に対し、地元(隣の春日部市)在住のアクメ将軍選手は小学生と見間違えるような体格で、まるでいじめっ子対いじめられっ子の対決であった。

前半は剛田選手の一方的な攻撃が続く。剛田選手はアクメ将軍の宝物のポケモンカードやドラクエカードを奪い、破ってしまう。アクメ将軍選手は泣いて場外に走り去ってしまった。しかし、仏様の加護でリングに戻り、剛田選手に反撃し、逆転勝利となった。

メインイベントはオパンT武藤&バットナース田中村VSHDTスタイルズ(SWSガクセイプロレス)&オナルドファック(関東学生プロレス連盟OB)のタッグマッチである。学生プロレスでは弱小の慶応大が他大学に挑む構図である。

スタイルズ選手とオナルドファック選手は霧吹きで目潰しなどの反則技を駆使して、相手を翻弄した。櫓の上での場外乱闘など盆踊り開場ならではの闘いが展開された。地元の名門校・春日部高校卒業の武藤選手にはリングサイドではレッツゴー・オパンTコールがされるものの、ヒールを倒すに至らず、HDTスタイルズ&オナルドファック組が勝利した。

試合終了後もHDTスタイルズ&オナルドファック組は攻撃を止めず、雫選手が止めに入った。雫選手はマイク・パフォーマンスを行い、寺院で反則する罰当たりを非難した。「お前ら反則ばかりでズルイ。場所どこだと思ってんだよ、寺だぞ」と言い放った。そして「悪い人間が勝って納得いかないので、お寺の名をかけてネゲロと一緒に二部のメインで倒します」と宣言した。

続いて第二部である。第一試合は軍団ひとりVSパイプイスである。パイプイスは普通の椅子であり、人間と椅子の対決というエンターテイメントである。軍団ひとり選手は過去にも透明人間と対決している。

試合開始前に軍団ひとり選手はパイプイスに「絶対凶器持っているよ」と難癖をつける。試合開始後、軍団ひとり選手はパイプイスを攻撃するが、パイプイスの固さに軍団ひとり選手が痛がる展開となった。その後も椅子相手に様々な技をかけ続けたが、最後はパイプイスにジャーマン・スプレックスをかけられて敗北した。

第二試合はオパンT武藤&LSDサバイバル論外(SWSガクセイプロレスOB)VSバットナース田中村&ボッキーコングJr(関東学生プロレス連盟OB)のタッグマッチである。LSDサバイバル論外選手が客に向かって唾を吐き、バットナース田中村&ボッキーコングJr組が二人がかりで武藤選手を攻撃するなど混乱した試合展開となった。最後は。バットナース選手がLSDサバイバル論外選手にカナディアン・バックブリーカーを決めて勝利した。

第三試合はハヤブサVSフェラクレス高橋である。ニートとフリーターのワーキングプア頂上対決と銘打っているものの、高度な技をかけあうレベルの高い試合となった。中盤で膝を痛めたハヤブサを高橋が執拗に攻撃するも、ハヤブサもニールキックで反撃した。最後はハヤブサの勝利で終わった。

メインイベントはHDTスタイルズ&オナルドファックVSエロワードネゲロ&雫あきである。第一部メインイベントで反則を連発して勝利したHDTスタイルズ&オナルドファックに対する遺恨試合となった。

先発はスタイルズ選手とネゲロ選手で、スタイルズ選手の優勢で進む。交代したオナルドファック選手も攻撃を続けた。ネゲロ選手と交代した雫選手が反撃するが、HDTスタイルズ&オナルドファック組は雫選手も髪を引っ張るという反則攻撃で対抗した。

会場から雫コールが起こるも、二人がかりで雫選手を攻撃続けた。レフェリーは救援に向かおうとするネゲロ選手を止めようとし、ヒール組の反則を見ない。実況席からはレフェリーに対し、「志村、後ろ、後ろ」と声が飛んだ。雫選手は何度もフォールに追い込まれたものの、その度に跳ね返し、最後は勝利した。

試合終了後にマイクを持った雫選手は「お寺なので、正義は勝つということを見せないといけないので頑張りました。勝ったぞ」と力強く述べた。さらに観客の子ども達に「本当に強い子は暴力を振るわない。真似しないで。」と語った。お寺で行うプロレスにふさわしく悪行を尽くしたヒールが最後に敗北するという勧善懲悪の展開になった。

この興行は非常にユニークな試みであった。

第一に会場が寺院である。プロレスと寺院という組み合わせは珍しいが、相撲が神事として発祥した歴史を踏まえるならば格闘技と宗教施設の組み合わせは意外とマッチしているとも考えられる。

第二に慈眼寺で行われる盆踊りと一緒になったイベントである。リングの隣には盆踊りの櫓が立っていた。会場周辺の屋台では焼きそばやたこ焼きが販売され、浴衣姿の見物客も多く、お祭りの雰囲気であった。盆踊りでは選手も一緒に踊っていた。学園祭など試合の機会が限られている学生プロレスにとって地域の行事で試合ができることは貴重である。

第三に目的がチャリティ目的であることである。試合の合間に浴衣姿の女子大生が募金を集め、集められた募金は安国寺住職が、責任を持って長野県善光寺の運営する乳児院に寄付する。

お寺プロレスは伊達直人現象を克服するか

閉塞感漂う日本社会に感動をもたらした伊達直人現象に先行する動きがプロレス界にも起きている。プロレスとチャリティを組み合わせた団体・お寺プロレス(雫あき会長)である。これは感動の影で底の浅さも指摘される伊達直人現象の弱点を克服できる可能性がある。

お寺プロレスは学生プロレスの現役やOB、OGを中心に結成された慈善事業ユニットである。プロレス興行で募金を集め、福祉施設に寄付する。今年の1月からブログやツイッターを開設して情報発信を行っている。

お寺プロレスの原点は埼玉県越谷市の慈眼寺で2010年8月9日に実施した慶應義塾大学プロレス研究会(KWA)のチャリティ学生プロレスである。そこでは悪事(反則)の限りを尽くした悪役レスラーを最後は善玉が倒すという勧善懲悪の分かり易い試合が展開された。会場で集めた約15万円の募金は、親のいない子供がいる乳児院に寄付した。

伊達直人現象は「タイガーマスク」の中の人である「伊達直人」を名乗る人物が養護施設にランドセルを寄贈したことが発端である。このニュースが報道されると、全国各地で「伊達直人」や「矢吹丈」が続出した。この伊達直人現象には一過性の自己満足という批判があることも事実である。

日本は諸外国に比して慈善精神が希薄である。それは日本社会の宗教性が希薄であることが要因である。諸外国ならば宗教的活動として自然に寄付するところである。ところが、伊達直人ら漫画のキャラクターに仮託しなければ寄付できないところに日本社会の底の浅さがある。

この点で、お寺プロレスは「お寺」を掲げるために自然に慈善と関わることができる。チャリティ興行という形で活動モデルが明確であり、一過性批判も回避できる。「お寺」と「プロレス」は斬新な組み合わせであるが、日本の伝統的な格闘技である相撲も元々は神社に奉納されていたものである。慈善を媒介にした寺院とプロレスの組み合わせは双方の活性化が期待できる。

伊達直人現象の政治性

日本中に感動をもたらした伊達直人現象であるが、その政治性は冷静に分析する必要がある。

伊達直人は梶原一騎原作の漫画『タイガーマスク』のヒーローである。伊達直人現象の亜種として登場した矢吹丈も同じく梶原一騎作品『あしたのジョー』の主人公である。ここからは寄付者の正体は梶原作品に感動した世代の人間であると推測できる。実際、インターネット掲示板「2ちゃんねる」ユーザーの寄付者は「ムスカ(『天空の城ラピュタ』のキャラクター)を愛するVIPPER」となっていた。

しかし、梶原作品のキャラクターが使われたということには、当該作品が特定世代に人気であったという以上の意味がある。梶原作品は格差や貧困、差別を直視しているためである。梶原作品の多くの主人公は差別され、貧困に苦しむ側の人間である。伊達直人も矢吹丈も孤児であった。その意味で児童養護施設への寄付者の名前に梶原作品のキャラクターを使用することはマッチしている。

一方で別の文脈から見れば寄付者の名前に梶原作品のキャラクターを使用することほど不釣合いなこともない。先進諸国と比べれば見劣りするものの、戦後日本の福祉は戦前から飛躍的に向上した。それは人権の尊重や男女平等、子どもの権利、家父長制の否定などを掲げる戦後民主主義の成果である。

これに対して梶原作品は戦後民主主義とは対極的な価値を描いた。『巨人の星』の星一徹が典型である。日本の福祉の担い手の主流は戦後民主主義の信奉者達であった。これに対して伊達直人現象は右からのアプローチと分析できる。それ故にリベラルを気取る市民がマスメディアの報道に乗せられて、伊達直人現象に感動することは滑稽である。

その点で日本共産党の機関紙・赤旗が伊達直人現象に冷静であることは自然である。赤旗では「タイガーマスクが1万人いても施設の現実は変わらない」という施設職員の言葉を引用しつつ、児童養護施設の抱える構造的な問題を提起している(「どうみる『タイガーマスク』」赤旗日曜版2011年1月23日号)。

現代日本において苦しむ人の受け皿になれる団体や運動は左派ばかりである(林田力「主権回復を目指す会が在特会を批判」PJニュース2010年8月21日)。これが日本の現実であるが、思想としての右派が苦しむ人の受け皿になれない訳ではない。戦前の日本でファシズムを推し進めた青年将校や右翼の念頭にあったものは東北を中心とした農村の窮乏であり、財閥への怒りであった。もっと遡れば明治維新の原動力になった尊皇思想も一君万民の思想に結び付く。

ところが、戦後右翼は戦争に負けたショックが激しく、連合国に無条件降伏した事実を善戦虚しく大国アメリカに敗北したと都合よく変換し、対米従属を肯定する「雇われ右翼」に成り下がった。近年になって急成長したネット右翼や「行動する保守」も嫌中や嫌韓を煽り、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を敵視するもので、対米従属路線の枠内にある。また、在日コリアンを差別する排外主義が特徴になっており、貧困や差別問題の担い手にはなり得ない。

これに対し、梶原作品は右翼的ではあっても、貧困者や被差別者の立ち位置にある。これは自らを多数派である日本人の一人と位置付けて、少数派の在日コリアンを排斥するネット右翼らとの大きな相違である。もし日本社会に右派の存在意義があるならば、貧困や差別と闘う梶原作品的な右派になる。

林田力


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